エドガー・アラン・ポー【早すぎた埋葬】(11)

【 崖のベッド 】

まずはこの写真(↓)を御覧いただきたい。これは魔談【早すぎた埋葬 8】(4月5日公開)で「ハンギング・コフィン」を読んだ友人が送ってきた画像である。映画の1シーンとかCGではなく、中国にこういう場所があるらしい。友人がネットでたまたま見つけた画像であり、解説は全て中国語なので「詳しい情報はさっぱりわからん」というじつに怪しげな写真なのだが、それにしても実際にあるとはにわかに信じがたい奇怪な光景だ。

「崖の棺桶ならぬ崖のベッド」と友人は笑うのだが、彼は高所恐怖症。
「こんなベッドは死んでも嫌や」。
まあそうだろうなと笑いつつ、私なら(金額にもよるが)一晩ぐらいなら滞在するのも悪くない、などと思う。「一睡もできんかった」なんてことにならないように酒の持参がOKならこのベッドで一夜を過ごしてみたい。それがNGなら、事前の酒でホロ酔いになってからこのベッドにもぐってみるのも悪くない、などと思う。あなたはどうですか?

【 類癇/るいかん 】

さて「早すぎた埋葬」の次に進もう。
ポーは「早すぎた埋葬」の戦慄例を4話も挙げ、魔談ではその4例を毎回語ってきた。

(1)墓舎で生き返って棺桶から出たが、閉じこめられたまま3年後に白骨で発見された夫人。
(2)銀行家に嫁いだが虐待で死亡。元愛人によって墓から掘り出されて蘇生した夫人。
(3)落馬して死亡。奇跡的に墓から生還したが、流電池をかけられて死亡した砲兵士官。
(4)死体解剖のために医師たちによって墓から掘り出されたが、流電池で復活した弁護士。

ここで「語り手」はようやく自身が抱えている「原因不明の奇妙な持病」と「生きながらの埋葬恐怖」を語る気分になったようだ。奇妙な持病とはどんな症状なのか。語り手は(読者が多少うんざりするほどに)この持病について切々と長々と語っている。
整理して要点を見ていこう。

(1)一日か、またはもっと短いあいだ、一種の昏睡状態に陥る。
(2)無感覚になり、外部的には全く動かない。
(3)心臓の鼓動はかすかながらある。
(4)温みも多少残っている。かすかな血色が頰のまん中あたりにある。
(5)唇に鏡をあててみると、肺ののろい、不規則な、頼りない運動を知ることができる。
(6)昏睡状態は幾週間、幾月もつづくことがある。
(7)ほとんど死体と見分けがつかない状態だが、腐敗はない。

原作では、語り手は自らのこの病気を「類癇/るいかん」と呼んでいる。一種の「全身硬直症」のようなものであるらしい。このような持病を持ち、またそれがいつ発作的に発病するのかわからないので、「死んだと見なされるんじゃないか」「生きたまま埋葬されてしまうんじゃないか」という恐怖と共に生きているのだ。
かすかでも心臓はちゃんと動いているんだし、呼吸もちゃんとあるのだから「死んだ」とみなす医師はまずいないだろうと思うのだが、語り手としては心配で心配でならないのだろう。

実際、ポーが自身の「早すぎた埋葬」を極端に恐れる男であったことは、当時、彼と交友していた人々の間では有名だったらしい。ポーは酒を好み、それが深酒となることが多く、グデングデンになってしまった時は必ずと言っていいほどこの恐怖を周囲に語ったそうである。
しかし彼はこの小説で語るところの「類癇」ではなかった。語り手が切々と自らの恐怖を語る部分はこの小説のまさにコアだが、それがいかにも真実であるかのように読者に錯覚させるために、彼はこの本題の直前に実話を4話も置いたのかもしれない。

さてそこでこの類癇男は、自分の恐怖を少しでも和らげるためにどう手を打つのか。
次回はそのじつに涙ぐましく、ほとんどもう滑稽の一歩手前ともいうべき語り手の「傾向と対策」について見ていきたい。

【 つづく 】


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