猫が帰ってくる話
『空猫アラベラ』アティ・シーヘンベーク・ファン・フーケロム作 野阪悦子訳 発行:本作り空Sola
友人の絵本作家吉田稔美さんに『空猫アラベラ』をいただいた。天国から猫が帰ってくるお話だ。
亡くなった猫たちは「空猫」となって空の上の「猫天国」に住んでいる。もとの飼い主にどうしても会いたくなった猫は「宇宙カゴ」に乗って地上に戻ってくることができる。ただし空猫には飼い主が見えるけれど飼い主には空猫が見えない。
アラベラは猫天国に行って8年目、急にどうしても飼い主のおばさんに会いたくなって宇宙カゴで地上に降りてくる。アラベラは人間にも犬にもネズミにも見えなくて、猫仲間にだけちゃんと見える。
おばさんは元気そうに暮らしていたけれど、本当に幸せになるためには足りないものがあることにアラベラは気づく。そしてもちろんおばさんの本当の幸せのためにアラベラは一肌脱ぐのだ。
いいお話!
オランダで50年以上前に出版された絵本を、去年、野坂悦子さんが翻訳された。オランダを旅行中に小さな書店で見つけ、ぜひ日本でも紹介したいと思われたそうだ。猫と人の絆は日本でもオランダでも変わりない。
吉田稔美さんご自身も猫の絵本を出版されている。『つづきのねこ』だ。
大切な黒猫を病気でなくした「わたし」の前に、そっくりの黒猫が現われる。偶然なのか、生まれ変わりなのか。いっしょに暮らし始めると見た目だけでなく癖や好みもそっくりなことがわかってくる。
シンプルなイラストと詩のような言葉でつづられた小さなかわいい絵本。
吉田さんはいまも黒猫と暮らしている。つまりこの話は体験をベースにしている。
このブログでも以前一度紹介したことがある。この文を書いたとき、ぼくはまだ猫と死別した経験がなかった。
<失ったものにはきっと「つづき」がある。深い悲しみの果てと、救済の神秘>
猫が待っていてくれる話
次は「虹の橋」。
虹の橋はとても有名だからご存じの方が多いだろう。インターネットを通じてまずアメリカで、それから世界中で知られるようになった作者不詳の詩がもとになっている。
虹の橋をテーマにした本は複数出版されているが、その中でぼくがいちばん好きなのがこれだ。
天国の手前に「虹の橋」と呼ばれる場所があり、この世を去った猫や犬たちが元気に楽しく暮らしている。
時がたち飼い主もまたこの世を去るとき、愛と信頼で結ばれた人と動物はふたたび出会い、天国への虹の橋をいっしょに渡る。
訳詞は音楽評論家・作詞家の湯川れい子さん。テレビのコメンテーターなどマルチな活躍をされているが、ぼくにとっては十代のころ夢中で聴いたラジオ番組「全米トップ40」のDJとして印象深い。長年にわたり動物愛護活動に尽力されているから「Rainbow Bridge」の翻訳にはまさに適任だ。
絵は半井馨さん。半井さんには個人的にお世話になっている。20年近いおつきあいで、昨年、一昨年には、ぼくが主催した展覧会「ホテル暴風雨展」にもご参加いただいた。
いまも、いつもそばにいる
インターネットつながりで『さよならのあとで』もご紹介しよう。
約100年前に亡くなったイギリスの神学者ヘンリー・スコット・ホランドの詩から作られた本だ。
この詩もインターネットによって世界中に広がった。タイトルはなく、冒頭の1行を取って「Death is nothing at all」と呼びならわされている。
『空猫アラベラ』と『つづきのねこ』が帰ってくる話、『虹の橋』が待っていてくれる話であるのに対して、『さよならのあとで』は「いつもそばにいる話」だ。
死が愛する者たちを引き裂くことはない。見えなくてもすぐ近くにいる。ほんのとなりの部屋に。その角を曲がったところに。
亡くなろうとする人から残される人へのメッセージのような言葉でつづられている。
「私が見えなくなったからといって どうして私が忘れられてしまうことがあるでしょう。」
覚えていてほしい。それも悲しみとともにではなく喜びとともに。そうすれば私たちはけっして大切なものを失うことはない。そんな想いが込められている。
人間同士の死別がテーマと思われるが、ペットロスに苦しむ人にもぜひ読んでもらいたい本だ。
当サイトの別の部屋で、シャルル大熊さんが心のこもった紹介文を書かれている。こちらもお読みいただければ嬉しい。『さよならのあとで』書籍の形をした「想い」について
(by 風木一人)
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