大事な対局――たとえば全国大会出場をかけた一戦、ぜったい負けたくないライバルとの対決、念願の昇段をかけた一番――それに負けたとき、しばらくはどんな言葉もなぐさめにはならない。
中学生のときから将棋部に入り、たくさんの試合、大会を経験してきたシュウイチはそれをよく知っていた。だからトモアキたちに多くの言葉はかけなかった。
そしてもう一つシュウイチが知っていたのは、今日負けたからといって、この半年間将棋に打ち込んできたことがムダになったわけではないということだ。五人にとっては、ゲームの王様、将棋と本格的に出会えたことこそ、本当の収穫であったに違いない。
将棋はだれでもが楽しめるゲームだ。だから将棋を通じて友達がたくさんできる。クラスが違っても、学年が違っても、学校が違っても、男の子でも女の子でも、子供でも大人でも。
シュウイチ自身、そのよろこびをたっぷりと味わってきた。
しかし――それも今は言わないことにした。
言わなくてもいずれわかるだろう。
それより、りっぱに戦った弟子たちをしょぼくれた顔で帰らせないためにはどうしたらいいのか?
シュウイチはいい手を思いついた。みんなをカラオケボックスにつれていったのだ。
どんなにおちこんでいたって、カラオケボックスでうつむいてるのはバカバカしい。こうなりゃヤケだ――と思ったかどうか、とにかくトモアキたちは二時間、歌いまくった。
店を出ると、夕暮れだった。六台の自転車がその中を走る。もうしょぼくれた顔ではない。
走りながら、これからも研究会を続けたいとトモアキがたのんで、シュウイチも気持ちよく引き受けた。ジュンとトオルはよろこんだが、アサ子は参加できないと言った。
「だって勉強しなきゃ」
「それ以上頭よくなってどうすんだよ」
「わたし、受験するんだもん。明日からは勉強ひとすじ。やるときゃやるんだ」
これだけきっぱり言われると止めようもない。トモアキは前を走るジュンを見た。背中には何も書いてない。
――――続く
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