絵本は絵と文でできています。表現したい内容のうち、絵にするべきものと文にするべきものを正しく見分けるのは、絵本を作る上でとても大切なことです。それは難しく考えると底知れず難しくなっていくのですが、きわめて単純明快に考えてみることもできます。
目に見えるものは絵にして、目に見えないものは文にする――風景や登場人物の顔や服の柄は絵にして、音や匂いや登場人物の気持ちは文にする。
わかりやすいですね。私の絵本に地の文が少なくセリフで構成されたものが多いのもこの原則によっています。
目に見えないものを絵にするのは当然ながら難しい。でも難しいからこそやってみたいと思うヒネクレた人が世の中にはいるものです。この本におけるいとうひろしさんがその一人。
主人公はあるとき、お父さんが釘を打つ音を聞いているうちに、不思議なことに気がつきます。目を閉じ耳を澄ましてみると、釘を打つ音が見えてくるのです。
おそらくカンカンとかトントンとかいう普通の音だったのでしょう。でもそれは主人公の中でふっと視覚化されました。
さあ、どんな風に見えたのか? ページをめくると大判の見開きいっぱいに奇妙で伸びやかな抽象画が広がります。これはもう見ていただくしかないのですが、私は「なるほど!」と感じましたね。
おもしろくなってきた主人公は、お父さんがいなくなった隙にトンカチを持ち出し、いろんなものを叩いてみます。湿った地面、ガードレール、太い木の幹、池の水面。
読者は「たたいてみました。」のページで自分なりに想像し、どんな絵が来るだろうとわくわくしながらページをめくることができます。そしてめくってみたら、いかにも叩いたものに似つかわしい素敵にヘンテコな絵が待っていてくれるのです。
目に見えるものを絵にし目に見えないものを文にするのは基本。でもそこからあえて一歩踏みだしたところに、絵本の新しい可能性がたくさん眠っているのかもしれません。
(by 風木一人)
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