誰かのために 番外編 皆様の声、大募集!

都内で今年初めて雪が積もった2月5日。
私は『ホテル暴風雨』の8080号室にチェックインしました。
以来、月一回のエッセイを交えつつ、毎週言葉を紡いできた、小説『誰かのために』が、先週、終了しました。

読んでくださった方、ありがとうございました。

ここでひとつ、皆様に懺悔させてください。

私はかつて、この8080号室で綴られる言葉たちは全て、私の内言が漏れ出たものだとお伝えしました。
内言。つまりそれは独り言。

日々暮らしていると、職場のデスクや街のカフェ、電車の中などで、明らかに独り言のレベルを超えた音量で何やら発言しているおじさん(稀におばさん)を見かけることがあります。
中には、明らかに病的な何かによって発せらているものもありますが、ここで取り上げているのはそういうのとは違い、ちょっと強めのため息とか咳払いのようなものです。

私は、その手の人に遭遇する機会がなぜか多く、その都度、内心ギョッとしつつ、動揺を隠し、彼らを観察するようになりました。
たぶん〝独り言メイツ〟の宿命なのかもしれません。類は友を呼ぶというやつなのでしょう。私は漏れちゃった独り言に対して、彼らがどう処理するのかを知りたいのです。
今後の参考のために。

気配を消し目を細めて(寝たふりしながら)、独り言おじ(もしくはおば)をうっすら見ていると、その多くが、自らの発した声に反応してくれる誰かを欲しているのではないか、と思うようになりました。
事実、周囲の人々が彼らの独り言に反応しないと、彼らはその音量を上げてみたり、言葉の量を増やしてみたり、演技に磨きをかけたりします。

そうやってブラッシュアップして、誰か一人でもその声に反応して彼らのほうを見たら、大願成就です。
今度はそのターゲットのために、モノロガー(ちょっとかっこいい表現にしてみました。あくまでも私の造語です)は、さらなる独り言を重ねます。
ただし、あくまでも〝独り言〟的な言い回しで。
決して「聞いて、聞いて!」というような態度は顕わにしません。アイコンタクトなんてもってのほかです。

その光景を薄眼で見ながら、私は、彼らが発しているのは、もはや独り言ではないことに気づきます。

否。明確な反応を求めない、という意味では、未だ独り言の範疇に入るのかもしれません。

積極的に傾聴してほしいわけではない。
でも、吐き出したい。
そして吐き出したことを、それだけを、知ってほしい。

吐き出したものが何なのかを知ってもらいたいわけでも、それを拾い上げてほしいわけでもない。ただ「あ、吐き出したね」と気づいてほしい。

主に、社会心理学で取り扱う人間の心理現象の中に『自己開示』と呼ばれる行為があります。

文字通り〝自分のことを開いて示す〟行為で、正確には〝自分に関する情報を、特定の他者に対して言語を介して自ら伝えること〟と定義されます。
例えば、日常生活における〝愚痴を聞いてもらう〟とか〝悩みを相談する〟とか〝カウンセリング〟なども、それにあたります。

そして、自己開示には、それをする目的があるとされています。

私たちは、時に〝自分の感情をただ吐き出したい〟と思うことがあります。
自分一人では抱えきれない思いを、ペーッと吐き出しそれを聴いてもらうことで、楽になるということが、確かにある。ある種のデトックスとも言えるでしょう。

あるいは、〝話すことで自分の頭の中を整理したい〟ということもあります。
昨今人気のサウナの世界では〝ととのう〟というのは、一種のトランス状態のことを指すようですが、自己開示では、人に何をどう伝えるのかを考えながら話し、自分の頭と心を整わせるのです。

また、話した後の相手の反応から〝自分の適切さを確認したい〟という時も自分を開いて示します。例えばこんなふうに。

A:「なんかさあ、〇〇さんって、ちょっと意地悪だと思うんだよね。もしかして、私だけが意地悪されてるのかもしれないけど……」
B:「わかるぅ! あの人、ちょっと意地悪な時、あるよね」
A:「やっぱり? 私、何かしくじっちゃったのかと思って悩んでたんだけど、そうだよね。やっぱ意地悪だよね、あの人」

この時、AはBに同意してもらえた事実と、意地悪されてるのは自分だけではないという安心を得るだけでなく、その迷いを吹っ切る悪口を吐露し、その悪事をBと共有したことで、自身の立場や感じ方のもっともらしさを確認することができます。

私たちは不安なのです。
自分の感じ方や考え、はたまた存在そのものが〝正しい〟と思いたい。でも、自信がない。もしかしたら、私〝だけ〟違っているのではないか?と思う。
だから確認する。身近な他者に開示して、同じだ、とか間違っていないという合意を得ることを求めるのです。

自己開示にはその他にも、自分のことをどれくらい相手に伝えるかで、相手との親密感の調整弁にするとか、自分に対する相手の印象を操作するというような目的もあります。
とりわけ、自己開示を親密感の調整弁にするというのは、最も重要な自己開示の目的とされています。
人は、自らを開いて示して相手との距離感を詰めたり、逆に閉じて隠して相手との距離感を広げたりするのです。

人の気を引きたいけれど、決して介入してほしいわけではないモノロガーは、心の中でとぐろを巻いている煮詰まった感情を、吐き出したいのかもしれません。まさに〝感情表出〟を目的とする『自己開示』です。

返しを求めず、溜まった何かをただ吐き出すということは、別に彼らに留まらず、実際のところ、世の中一般に蔓延しているのではないでしょうか。

一日の仕事を終え、帰宅した部屋でふうっとため息を吐く。
夏の夜、お疲れビールで喉を潤して「クーッ」と叫ぶ。
ソファーにドカッと腰掛けながら、「あー、しんど」と言う。
熱めのお湯に浸かって、ああーっと声を漏らす。

モノロガーの〝独り言〟がそれらと違うのは、そこに次の要素が入るからです。
それは、吐き出したという行為を誰かにちゃんと見届けてほしい、というものです。

相槌も状況確認も問題解決もいらないけれど、反応は欲しい。
それは果たして〝独り言〟と言えるのでしょうか?

でも待てよ。
これって、私がこの8080号室で綴っている内言たちと何が違うんだろう……。
実際、この約半年間、私はずっと感じていました。
「見てくれて(読んでくれて)る人、いるのかなあ?」という不安を。

…………同じだ!

というわけで、今回、私は皆様からの反応を待つことにしました。
脱!独り言です。
この部屋は〝独り言の意義と地位を高めるため〟に、開室したはずなのに。
NO独り言、NOライフのくせに。独り言から脱するとは、これいかに!?

皆様、ごめんなさい。
私、嘘つきました。やっぱり独りぼっちじゃ嫌なんです。
「鏡よ、鏡」と鏡に問いかける魔女は、鏡が答えてくれると思うから問うのです。
しかも強欲な魔女は、ただ「見た(読んだ)よ」という反応だけじゃなく、「〇○だった」というような、皆様のご意見やご感想までも欲しています。

そんなわけで、ここ8080号室に(偶々かもしれなくても)いらした皆様!
ただいまGoogle Formsで『誰かのために』の終了記念アンケートを実施していますので、よろしければ、是非御回答のほど、よろしくお願い申し上げます。

私は日頃、大学で講義をして生業を得ているのですが、今や、授業評価は当たり前。
学期の終わりに、学生から送られる教員の通知表。それが『授業評価アンケート』です。
大学の授業評価アンケートは、原則〝無記名〟で行うものなので、ここでも、皆様のメールアドレスなどは頂きません。読んでなくても大丈夫。全13問の簡単なものです。おそらく3分ぐらいで回答できます。お湯を注いでカップラーメンができるまでの間、お気軽に御回答いただければ幸いです。
是非、忌憚のないご意見、お待ちしております。

++ 「回答してもいいよ」という方は、こちら↓をクリックしてください  ++

ホテル暴風雨8080号室で連載されていた『誰かのために』についてのアンケートです。 今後の〝独り言〟活動における意義と意欲の向上のため、もしよろしければ、アンケートにご回答いただけると幸いです。回答していただいた結果は、集計の後、改めて公開させて頂きます。

(by 大日向峰歩)


*編集後記*   by ホテル暴風雨オーナー雨こと 斎藤雨梟

峰歩さんの赤裸々すぎる(?)懺悔告白に思わず涙しそうになりました。連載、お疲れさまでした。みなさん、お気軽に「独り言、聞いてたよ」のサインとしてアンケートご回答ください。峰歩さんもおっしゃる通り、「たまたまきたけど、これまで一度も読んでない」方も大歓迎です。
簡単にササっとお答えいただけるぶん、質問へのご回答以外の情報は収集しませんので、回答者の方を特定することもお返事を出すこともできません。ですので、峰歩先生に質問したい! お返事が欲しい! という方、そしてアンケートとは別にメッセージが送りたいという方は、いつも通りこちらのメールフォームからお待ちしています。

ご愛読、ありがとうございました。新連載をどうぞお楽しみに♪
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