炎が揺れる。
「人は、
何度でも迷う」
熱風が吹く。
「何度でも執着する」
光が巡る。
「だから、
何度でも焼かねばならん」
善財は静かに聞いていた。
勝熱バラモンは、
炎を見つめながら続ける。
「じゃが」
その目が、
少し優しくなる。
「焼かれるたび、
人は軽くなる」
善財は、
胸へ手を当てた。
確かに。
何かが、
少し軽くなっていた。
勝熱バラモンは、
満足そうに頷く。
「うむ。
よい顔になった」
善財は苦笑した。
「死ぬかと思いましたよ……」
勝熱バラモンは、
豪快に笑った。
「皆そう言う!!」
炎が爆ぜる。
だが今度は、
その音さえ少し心地よく聞こえた。
善財は、
燃え盛る炎を見つめていた。
不思議だった。
つい先ほどまで、
あれほど恐ろしく見えていた炎が、
今は少し違って見える。
危険なのは変わらない。
熱いのも変わらない。
だが。
ただ破壊するだけのものには、
見えなかった。
勝熱バラモンは、
そんな善財を見ながら頷く。
「少しは分かったか」
善財は苦笑した。
「……分かったような、
分からないようなです」
「うむ」
勝熱バラモンは満足そうだった。
「それでよい」
善財は思わず笑う。
「皆、
同じこと言うんですね」
「当然じゃ」
勝熱バラモンは即答した。
「“全部分かった”
などと言い始めたら危険だからな」
善財は、
少しだけドキリとした。
勝熱バラモンは続ける。
「知識は、
時に人を傲慢にする」
炎が揺れる。
「修行もじゃ」
熱風が吹く。
「善人であることすら、
執着になる」
善財は静かに聞いていた。
勝熱バラモンは、
刀山へ目を向ける。
「だから、
何度でも焼く」
善財はふと思い出す。
「梵天たちも、
そう言ってました」
「うむ」
「神様とか魔王とかまで、
焼かれてたんですね……」
勝熱バラモンは笑った。
「偉い者ほど、
よく燃える」
善財は吹き出した。
空の上では、
梵天たちが少し困った顔をしている。
だが誰も否定しなかった。
善財は、
炎を見つめながらぽつりと言う。
「でも……
ちょっと安心しました」
「ほう?」
「皆、
最初から完成してたわけじゃ
ないんですね」
勝熱バラモンは、
しばらく黙っていた。
やがて静かに言う。
「完成など、
誰にも無い」
炎が揺れる。
「だからこそ、
進み続ける」
善財は、
その言葉を静かに聞いていた。
勝熱バラモンは、
ふっと笑う。
「さて」
善財は顔を上げる。
「そろそろ、
次へ進め」
善財は少し驚く。
「もうですか?」
「旅とは、
留まるものではない」
勝熱バラモンは、
炎の向こうを指差した。
「南へ行け」
熱風が吹く。
「そこに、
慈行という童女がおる」
善財は、
少し目を瞬かせた。
「童女?」
勝熱バラモンは笑う。
「そうじゃ」
炎が揺れる。
「おぬしとは、
また違う形で世界を見ておる」
善財は、
何となく意外そうな顔をした。
勝熱バラモンのような人物の次に、
“童女”と言われても、
頭が追いつかない。
勝熱バラモンは、
そんな善財を見て豪快に笑った。
「安心せい!!
今度は炎へ飛び込ませたりはせん!!」
空の上で、
梵天たちが小さく笑う。
善財は苦笑した。
「それを聞いて、
ちょっと安心しました……」
勝熱バラモンは、
最後に静かに言った。
「覚えておけ」
炎が揺れる。
「恐れを消す必要は無い」
熱風が吹く。
「恐れたままでも、
前へ進めばよい」

善財は、
静かに頷いた。
そして深く礼をする。
「ありがとうございました」
勝熱バラモンは、
豪快に笑った。
「うむ!!
また燃えたくなったら来い!!」
善財は苦笑する。
「できれば遠慮したいです……」
炎はなお、
轟々と燃え続けている。
だが善財には、
その炎が以前より少しだけ、
優しく見えていた。

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