【善財くんがゆく!】第十一話 善財くん、宝石の中に宇宙を見る:第五の善知識・慈行童女 (3)

その言葉は。

まるで。

法堂全体へ、
静かに染み込んでいくようだった。

善財は、
しばらく法堂を見回していた。

見れば見るほど、
世界が増えていく。

柱の中。

宝石の中。

光の反射の中。

そこには、
また別の如来。

また別の国土。

また別の説法。

しかも。

どれひとつとして、
同じものがない。

善財は、
少し頭を抱えた。

「……これ、
全部覚えられる人とかいるんですか?」

法堂の童女たちが、
また小さく笑う。

慈行童女も、
どこか楽しそうだった。

「覚えることが、
大切なのではありません」

「え?」

慈行童女は、
静かに柱へ手を触れた。

すると。

柱の中の世界が、
水面のように揺れる。

「世界は、
固定されたものではないのです」

光が巡る。

「智慧もまた、
流れ続けています」

善財は、
その光景を見つめていた。

慈行童女は、
静かに続ける。

「この“般若波羅蜜普荘厳”を転じると――」

法堂の空気が変わる。

宝石の光が、
ゆっくり回り始めた。

「“普門”という陀羅尼が現れます」

善財は首をかしげた。

「だらに?」

「無数の法を、
ひとつに結び続ける力です」

その瞬間。

法堂中の光が、
一斉に巡り始めた。

善財は目を見開く。

柱の中の世界が動く。

宝石の中の如来が説法する。

無数の景色が、
互いに映り込み始める。

世界が。

回転していた。

「うわ……」

善財は思わず声を漏らす。

光。

音。

言葉。

無数の法門が、
互いに繋がりながら巡っていく。

ある世界の説法が、
別の世界へ流れ込む。

ひとつの祈りが、
また別の世界で花開く。

無数の智慧が、
巨大な網のように絡み合い、
広がり続けていた。

善財は呆然と呟く。

「世界ネットどころじゃない……」

法堂の童女たちが、
くすりと笑う。

慈行童女は、
穏やかに善財を見る。

「すべての法は、
互いに孤立してはいません」

光が巡る。

「出会い」

「言葉」

「苦しみ」

「喜び」

「願い」

「祈り」

無数の世界が、
呼吸のように重なり合う。

「それらは互いに響き合い、
現れ、
入り込み、
そして留まっています」

善財は、
その光景から目を離せなかった。

もはや。

どこからどこまでが、
ひとつの世界なのか分からない。

だが不思議と、
混乱はしていなかった。

むしろ。

巨大な音楽の中へ、
静かに包まれているようだった。

善財は、
しばらくその光景を見つめていた。

無数の世界。

無数の法。

無数の声。

それらは決してぶつかり合わず、
巨大な流れとなって巡り続けている。

善財は、
ぽつりと呟いた。

「……静かだ」

慈行童女は、
小さく頷く。

「はい」

法堂の光が揺れる。

「本当に深いものは、
騒がしくありません」

善財は、
その言葉を静かに聞いていた。

たしかにそうだった。

今、
法堂では無数の世界が動いている。

無数の如来が説法している。

無数の法門が巡っている。

なのに。

不思議なほど、
穏やかだった。

慈行童女は、
ゆっくり法堂を見渡す。

「仏国土の法門」


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