昨日の続き。
『アップル、グーグルが神になる日 ハードウェアはなぜゴミなのか? (光文社新書) 』
を読んでわたしは興奮した。
『ものぐさトミー』の世界が実現しかけている!と思ったからだ。
(ペーン・デュボア作 松岡享子訳 岩波書店)
この予言的傑作は日本では1977年刊行だが、原書は1966年、ちょうど半世紀前に書かれている。作者ペーン・デュボアの先見性には驚くばかりである。
ロングセラーゆえ、子どものころ読んだ方も多いと思うが、そうでない方のためにご紹介しよう。
主人公のトミー・ナマケンボ(ひどい名前だ…)は全自動の家に住んでいる。
朝になるとベッドが自動的に傾いて、トミーをちょうどよく沸いたお風呂に放り込み、自動的に洗って自動的に乾燥してくれる。
立っているだけで、ロボットアームが歯を磨いてくれるし、髪をとかしてくれるし、着替えも食事も自分からは指一本動かさなくてもぜんぶ無事に終わってしまう。
トミーの家とその設備はすごくよくできているのだ。
トミーは毎日何もすることがない。ものぐさだからそれでちょうどいい。
ところが。
嵐がやってきて、電柱をへし折ってしまう。
電気が止まれば、全自動ハウスは機能停止。
ここでトミーがあわてると思ったら大間違いだ。
そんなやわなものぐさではない。
平然と七日七晩眠り続けるのだ。
家がダメなら自分でやろうなんて絶対思わない。思うわけがない。
さて誰かが電柱と電線を修理した。
全自動ハウスは復活した。
しかし以前とはいささか違ったふうに。
七日間止まっていたことはいろんな方面に影響を及ぼすのだ。
さあ。くるぞくるぞ。
全自動ハウスが一度狂ったらどれほど恐ろしいことになるか、この50年前の絵本は描ききっている。
トミーは、目覚めたとたん水風呂に放り込まれ、足の裏を歯ブラシで磨かれ、パンツとシャツをあべこべに着せられ、逆さづりでタマゴ42個分のスクランブルエッグと70きれのベーコンと56枚のジャムつき熱々トーストを振りかけられるのだ。
さすがのトミーも最後にはこのようなことを言う。「すっかり心を入れ替えないと、ほんとにもうお終いだ」
☆ ☆ ☆ ☆
アップル・グーグルという神のもとで、ついにリアルとネットが融合した新世界を手に入れようとしている今。
面倒くさいことはすべてコンピュータと連動したマシンがやってくれ、人間は楽しんでさえいればいいという夢が実現しそうな今こそ。
わたしたちは、大量の食料に埋もれながら呻くように発されたトミーのひとことを、決して忘れてはいけないのではないだろうか?
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