『さよならのあとで』書籍の形をした「想い」について

『さよならのあとで』
(詩・ヘンリー・スコット・ホランド 絵・高橋和枝 装幀・櫻井久 夏葉社)
この特別な本については前から書きたいと思っていた。

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とても美しい本である。

帯に「いちばん大きなかなしみに」とある。
一番大きな悲しみとは大切な人を亡くすことだ。
それがどんなものかは誰にでもわかる。
幸運にも体験していない人も、もしものことを想像すればわかるだろう。

驚くべきことにこの100ページほどの本には42行の言葉しかない。
詩の本にしても少なすぎる。
2ページに1行もないのだ。
そしてそれがこの本の生命である。

ヘンリー・スコット・ホランドの詩はそれ自体とてもいいものだと思う。
しかしそれがぺらっと1枚の紙に印刷されていたら、わたしはここまで感動しなかっただろう。
ページをめくるたび1行の言葉が、あるいは1枚の小さな絵があらわれるという体験が重要なのだ。
自らの指の動きによって次へ進んでいく本というものの形を、これほど生かした作品を他に知らない。

わたしは『さよならのあとで』を深く愛しているし、何度も読みかえしてきた。
それなのにわたしは、本を閉じると、そこにどんな言葉があったか、どんな絵があったかを忘れてしまう。
言葉でも絵でもないが、何か胸の底に残っているものは確かにあり、それが本に込められた「想い」なのだと思う。

想いに物理的な形はない。
言葉は想いを伝えようとするものだが、想いとイコールではなく、想いを心の中にあらしめるためのきっかけのようなものだろう。
絵もまた同様にちがいない。

言葉、絵、デザインが理想的な仕事をしてくれたおかげで、わたしは本をひらく必要がなくなってしまった。
この小さな軽い本を手にするだけで、心がしーんとしてくる。しずかな悲しみと温かみを感じる。
もっと言えば手に取らなくてもよい。
本棚にこの本があると思うだけで「想い」は再生される。

『さよならのあとで』を刊行した夏葉社は島田潤一郎さんという方がひとりでやっている出版社だ。
島田さんはある個人的な経験からこの詩と出会い、なんとしても本にしたいと思い、そのために夏葉社を立ち上げたという。
この本さえ出せたらやめてもいいと思っていたという。

その志に強く打たれる。
伝えたい想いがある。だからそれを全力で形にする。
出版とはまさにこういう事業ではなかっただろうか。

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