マリモちゃん(後編)

女王のおこす火と体に巻き付けているコケのおかげで、マリモ達は凍える事はなくなりました。
火のおかげでマリモ達は暖かい食事をとる事もできたのです。

何年も経ったある日の事です。
いったい最初に誰が始めたのでしょうか?
もっと暖かくなる為に、マリモ達がお互いにくっつく事がはやり始めたのです。
そう、マリモの表面はブドウのようにツルツルなので、とてもくっつきやすいのです。

マリモは互いにくっつくと離れなくなり、一回り大きなマリモになりました。
このようにして、どんどんとくっついて、大きくなったマリモが増えていきました。
大きくなったマリモは力も強く、大きいだけではなく、気性も荒かったのです。
大きくなったマリモ達は、次第に争うようになりました。

「わたしの方が大きく立派なマリモなのよ!なによ女王はあんな小さくて火しかおこせないのに・・・」
「そうだそうだ!もう我々には火なんて必要ない!」
「俺たち巨大マリモのほうが、頭もいいし、優れている」
「さよう、その中でもワシが特に優れておる」
「なにを言う!おまえはただ大きいだけではないか。僕のほうが数段優れている!」

・・・・と、このように、毎日のように争いごとが絶えなくなってしまったのです。

女王が宮殿からマリモの町を見ると巨大化したマリモ達が争っているのが見えました。
マリモ達の争いが収まる気配はなく、女王は困り果てました。
マリモの国はもう平和な国ではなくなりました。

そこへ湖の神様が現れました。
「女王陛下、お困りのようですね」

「ああ、湖の神様!あなたは私が困った時にだけ現れるのですね!
見てください!みんなの為に火を起こし平和な国を作ったと思ったのに、この有様です!
私はどうすればいいのですか?」

湖の神様は町を指差しながら女王に言いました。
「あそこに居る若者が見えますか?」
女王が湖の神様が指差す所を見ると、みんなとくっつく事無く一人でいる若いマリモが居ました。
「あの若者は、昔のあなたです・・・・・」
そのように言うと湖の神様は消えてしまいました。

そうして、ある日とうとうクーデターが起きました。
巨大化したマリモ達はゴロゴロと転がり、女王の宮殿を壊しながらやってきたのです。

「もう女王の火は時代遅れだ!大きくなった我々には女王の火はもう必要ない!」
「われわれ巨大マリモに政権を譲りたまえ!」

巨大化したマリモに小さなマリモが敵うはずもありません。
女王の兵士達はたちまち巨大マリモに滅ぼされてしまいました。
女王は捉えられ、牢獄に入れられました。

牢獄の中で、女王が湖の神様に祈りを捧げていると、ガチャリと音がして、牢獄にあの若者が入ってきました。
「女王、ここから出してあげます。ここから逃げましょう!」

女王と若いマリモは国から出て荒野を歩きました。
「女王、急いでください!もうすぐ追っ手がやってきます!」
しかし、歳も取り牢獄で病気にかかってしまった女王はもう走る事が出来ません。

「・・・・若者よ。あなたは、どうして私を助けようと思ったのですか?」
「女王、僕は昨夜夢をみたのです」
「それは、どのような夢なの?」
「夢の中で僕は湖の中に住んでいました。湖の中はそれはそれは懐かしい気持ちでした。
出来れば、いつまでも湖の中に留まりたいと思いました。
・・・しかし、そのままでは僕は外の世界の事を知る事ができません。
僕は緑の衣を脱ぎ捨て、湖から出て陸へと上がったのです。
その夢で僕は分かったのです。僕はみんなとくっついてはいけない、と。
だから僕は女王を助けようと思ったのです」

二人は何日も歩き続け、やがて素晴らしい眺めの湖が見えました。

「ここが私の故郷よ。若者よ、私はもう満足です。
自分の国を作る事が出来たし、死ぬ前に故郷を見る事もできたわ・・・・。
湖を出る事がなければ、私はこんな経験をする事もなかったでしょう!
湖の神へ感謝しますわ」
「女王・・・・あの湖へ帰りたいですか?」
「いいえ。私は今、何故緑の衣を脱ぎ捨てたかを理解しました。
・・・それは、『大いなるマリモと』一緒になる為なのです」
「女王、その『大いなるマリモ』はいったいどこに?」
「若者よ、この大地が『大いなるマリモ』なのです。
わたしは長い旅を続けて、自分の国を作り、ようやく分かりました。
あなたは行って、そして自分の国を作りなさい。
・・・・・私は『大いなるマリモ』とひとつとなる時が来ました。
ありがとう、若者よ」

そのように言うと、女王は静かに息をひきとりました。
若者は死んでしまった女王を湖が見渡せる丘に埋めました。
・・・・いや女王はきっと死んではいないのでしょう。
女王は『大いなるマリモ』と永遠にひとつになったのです。

空には満天の星空が輝いていました。
若者には、ふとその星空が湖の底から見る泡のように見えました。
いつの日か若者もあの空へと昇り、『大いなるマリモ』を見る事が出来るような気がしました。
『大いなるマリモ』はきっと美しい緑色で輝いているに違いありません。

――――完

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