ウナギ〜絶滅危惧種のウナギを食べているのは誰だ

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第21回 ウナギ〜絶滅危惧種のウナギを食べているのは誰だ」

イギリスの田舎町では全国的なロックダウンの前日、パブに多くの人が集まり、どんちゃん騒ぎが繰り広げられていたそうである。この話を聞いて我々日本人は笑ってばかりもいられない。2013年、ウナギが絶滅危惧種に指定されるかもしれないとの報道で、食べられなくなる前に食べておこうという動きがあったからだ。

ウナギの絶滅危惧種指定については、2010年の絶滅危惧種を記載したリストである第3次レッドデータブックにすでに記載されていた。しかし、この時はニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの漁獲量が30年で3分の1に減っているものの、どの程度の危機状況かを判断する知見がなかったことから情報不足(DD)として記載されていた。その後、2013年の第4次レッドデータブックには「3世代において、少なくとも50%以上は成熟個体が減少していると推定される」と評価され、絶滅危惧IB類に分類されることとなった。絶滅危惧IB類とは「近い将来における絶滅の危険性が高い種」と定義されている。更に、2014年には国際資源保護連合(IUCN)でも「絶滅する危険性が高い絶滅危惧種」として国際機関においてもレッドリストに登録されている。あれよあれよという間に世界デビューを果たしてしまった。

このように絶滅危惧種に指定されるというニュースが流れるたびに、SNS上では今のうちに食べておこうと考える人が現れ、タイムラインを賑わせていた。ただ、本当に食べに行ったかどうかは不明である。日本におけるウナギ類の消費量は2000年の約16万トンをピークに2013年には約3万トンまで落ち込んでいる。供給減と価格高によって消費量はかなり落ち込んでいることは確かなようだ。とは言え、世界のウナギの6割から7割が日本で消費されているらしい。

実はウナギの旬は秋から冬にかけてである。江戸中期以降、夏の土用の丑の日に「う」の付く食べ物を食べると夏を乗り切ることができるといわれてきた。ウナギを食べる習慣は需要が落ち込む夏にウナギを売り出すためのプロモーションであったという説がある。現代でいうところのクリスマスのチキン、節分の恵方巻き、お正月の初詣などと同様、企業プロモーションが季節行事と化した走りであったと考えられる。当時の人もこの風習が100年以上続くとは誰も思っていなかっただろう。

さて、先にも示したとおり、ここ20年でウナギの消費量は5分の1にまで減少したが、いったい誰が今も食べ続けているのだろうか。ある統計によるとウナギの蒲焼きに対する支出額は20代が最も少なく、年代が上がるにつれ増加している。つまり、高齢者ほどウナギの蒲焼きを食べているのである。

今から20年ほど前、私が社会人になりたての頃、職場の偉い人が土用の丑の日にウナギの蒲焼きをご馳走してくれたことがあった。私は時候の挨拶のように朝から「今日は土用の丑の日ですね」とその偉い人に話を振った。私としては「朝から暑いですね」と同じくらい当たり障りのない挨拶のつもりだったのだが、偉い人は「じゃあ、今日はウナギを食べに行くか」と当然のように言うのである。催促したようで少し気まずかったが喜んで付いて行った。近くの定食屋でご馳走になったのだが、久々に食べるうな重は美味かった。ちなみに翌年も時候の挨拶をしたが、下心を見抜かれたのかご相伴にあずかることはできなかった。

先程の統計では高齢者ほどウナギに対する支出額が多いという結果だったが、ある程度は若い世代へのご馳走も含まれているかもしれない。しかしながら、それ以来ウナギをご馳走になっていないし、ご馳走もしていないことを考えると、やはり消費量は落ち込み、高齢者を中心に食べられていることは確からしい。つまり、今の若い人はご馳走になることも少なくなり、ウナギを食べる習慣自体もなくなっている可能性がある。

私が子供の頃、かろうじてクジラが給食に出た記憶がある。おそらくその当時からすでにクジラは品薄で、高級になりつつあったと思うが、文化の継承という観点からクジラが提供されたのではないかと思っている。関西ではハリハリ鍋といってクジラと水菜を煮込んだ鍋が食べられていた。子供の頃の記憶では阪急神戸線梅田駅を出てしばらくすると南側にクジラの絵のネオン看板があり、ハリハリ鍋を提供するお店だったと記憶している。実家を離れ30年近く経過しているので、今でもそのお店があるのか是非情報提供をお願いしたい。ハリハリ鍋の肉は今では豚肉に取って代わられており、クジラ食文化は一部の美食家たちの嗜好品としてのみ生き残っていると考えてもいい。

このままウナギ生産量の落ち込みが続くようなら、クジラ食文化の衰退過程と同様にウナギ食文化も衰退する危機に面している。これはウナギだけではなく、水揚げ量が激減しているマグロ、イカ、サンマなどにおいても同じである。ウナギを食べる習慣がない若い人が、年を取るとウナギを食べるようになるわけはない。食文化を守りたいなら若い人に食べさせなければ守ることはできない。年配の人は若者にウナギを奢るべきである。そして私もまだまだ若い気でいる。

参考資料:

人とウナギの歴史(WWFジャパン)

うなぎは誰が買っているのか…うなぎの購入傾向をさぐる(2020年公開版)(yahoo!ニュース)

(by ぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第21回「ウナギ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第21回「ウナギ〜絶滅危惧種のウナギを食べているのは誰だ」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ウナギ、美味しいですよね。私はウナギがありがたいウナギ大好き世代でもあり人並みくらいにウナギは好きですが、以前から土用の丑の日に食べる習慣はなく食べたい時にたまに食べる程度でしたので、「絶滅しちゃうから今のうちに食べようよ」の大絶滅キャンペーンに乗り、以前よりもだいぶ価格高騰したウナギをわざわざ求めて買う気にはなれない派。

ですが、新たなウナギ食文化には貢献しています。というのも、最近こういうのがお気に入りだから。

一正蒲鉾「うな次郎」

ウナギの蒲焼そっくりのカマボコなんですが、これがけっこうイケます。こってりしたウナギが好きな方にはアピールしないかもしれませんが、さっぱり系やわらかめが好みであればおすすめです。各社から類似製品は出ており、中にはこってり系で歯ごたえのあるウナギを再現したものもあるかも?

スーパーで時々売っていますが常時販売の定番品ではないので、行くとキョロキョロ探し回り、見つからないと「な〜んだ、本物のウナギしかないじゃないか」と舌打ちする始末。

amazonでも売っています

見た目そっくりなもののあくまでもウナギとは別物で、カマボコにしてはちょっと高い……けど美味いのでお気に入りです。

よくぞこういうの作った! とその心意気をリスペクトしたい。ありがとう一正蒲鉾さん。

ウナギに対してはこれくらいの「人間がカマボコ食べてる間に頑張れよ〜」というテンションですが、アナゴやハモが大・好物なので絶滅のピンチに陥ったりしたら本当に困ります。うちで養殖しようかしら。

Twitterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回もウナギについて、絶滅の危機にある生物や食文化について、カマボコについて、誰かぐっちーさん(と私)にウナギを奢って! などなど、何でもTwitterでお話したいと思います。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ご意見・ご感想・ぐっちーさんへのメッセージは、こちらのコンタクトフォームからもお待ちしております。

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・マンガ・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter