キンドル電子書籍のセルフ出版は簡単か?

前回「KDP電子書籍の印税(ロイヤリティ)はなぜ70%なのか?」の続き。

KDP(kindle direct publishing)のセルフ出版は個人でできる。amazon への登録に費用はかからない。売れたときに手数料(定価引く印税)を支払うだけ。じゃあ、やってみようかという方もいらっしゃるかもしれない。気になるのはまず簡単かどうかだろう。

「電子書籍 作り方」などで検索すると山ほど情報が出てきて、簡単と書いているサイトも多くある。amazon 自体がKDPの説明で「出版にかかる時間はほんの数分」などと書いている。

Kindle ダイレクト・パブリッシング

数分はいくらなんでも言いすぎだ。
少なくともぼくには数分ではできなかった。難しいというほどではないにしても、時間と手間はずいぶんかかった。
親切な解説サイトがたくさんあるので、作り方の詳細にはふれないが、ぼくが一番お世話になったのは海河童さんの電子書籍『さるでもできるKindle電子出版』と<電書ちゃんのでんでんコンバーター>だ。

ぼくが購入した『さるでもできるKindle電子出版』は2017年版で情報に古い部分もあったが、根幹部分は必要充分かつわかりやすく、これのみでキンドル本を出すことも可能だろう。
でんでんコンバーターは普通のテキストや画像のファイルを電子書籍用のEPUB 3に変換してくれる無料のウェブサービスだ。
他にもいろいろやり方はあるのだろうが、ネットで調べた結果、ぼくにとっては上のふたつを利用するのが最も簡単そうだった。

一口に電子書籍を作るといっても、どんな電子書籍を作るかで難易度は違う。
最初の分かれ道は、テキスト(文章)中心の本か、画像中心の本かだ。
絵本やコミックは画像型の電子書籍になる。全ページを画像化して並べたようなものだ。これの利点はレイアウトが絶対崩れないことで、欠点はスマホなど小さな画面では読みにくいことだ。スマホよりは大きなキンドル専用端末でも、ぼくはコミックを読むと多少ストレスがある。
作るのが難しいかは、ぼくは画像型(固定レイアウトともいう)の電子書籍を作った経験がないのでまったくわからない。すみません。

小説であれ参考書であれ、テキスト中心の本はリフロー型の電子書籍になる。リフロー型は画面サイズに合わせてレイアウトが変わる。ウェブページやワープロ文書に近いイメージで、読者が好みにあわせて字の大きさや行間を調整できる。端末や設定によって1行の文字数も1ページの行数も変わってしまうので、ページという概念があまり意味をなさない。
ぼくが作ったのはこちらのタイプだ。

プロの絵本作り1表紙

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じつは『プロの絵本作り1&2』はぼくが初めて作った電子書籍ではない。
2017年の『超訳文庫アングリマーラ』が1冊目だ。

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ホテル暴風雨3280号室の、ぶんのすけさんの連載を電子書籍化した。仏教典の「超わかりやすい」現代語訳だ。このとき初めて電子書籍の作り方を勉強した。
この本は完全に文章だけで挿絵や図版は使っていない。あまり深く考えず縦書きで作ったが、縦書きは横書きよりも難しい点がいくつかあった。要は電子書籍も他のIT技術同様に、英語仕様で開発されたものを日本語対応させているので、どうしてもひと手間余計にかかってしまうのだろう。
縦書き横書きにさほどこだわらない方は、横書きをおすすめする。

2冊目は2018年に刊行した『魔談特選1』。こちらはホテル暴風雨1666号室、北野玲さんの連載を電子書籍化した。さまざまな意味での怖い話アンソロジーである。

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『超訳文庫アングリマーラ』と違ったのは本文内に画像を使ったことだ。魔談連載には毎回1枚北野さん作成のイメージ画像が入り、これを電子書籍版でも生かしたいと考えた。
画像を挿入すること自体は難しくない。ただリフロー型において、画像と文章の位置関係をコントロールするのは難しい。複雑なレイアウトはほぼ無理だ。『魔談特選1』では連載時より画像数を減らし、章の最初か最後に配置するようにした。
テキストが中心の本でも、挿絵や説明図を入れたいケースはたくさんあるだろう。しかし現状では、そういった本には電子書籍はあまり向いていない。紙の本の方がはるかに勝っている。
制作を簡単にするには文章のみの本がいい。どうしても画像を入れたければ極力単純なレイアウトにするべきだ。

さて『プロの絵本作り』はぼくにとって3回目の電子書籍制作だった。技術的に前2回でやっていないことはほとんどなかった。だから簡単だったかというとそうでもない。
1回目から2回目も、2回目から3回目も、間隔が約1年もあったからだ。いろいろ忘れているので思い出すのに時間がかかった(笑)。
最初に戻って、本題の「電子書籍を作るのは簡単か?」だが、ぼくの実感としてはそんなに簡単ではない。
一番単純な作り方をすれば簡単なのだが、縦書きにする、画像を入れる、ルビをふるなど何か加えるたびに手間が増えていく。面倒くさくなる。

簡単といえるのは「一度作ったことのある本と同じ仕様の本を、忘れない程度の間隔で作る」ときのみではないかと思う。

ちなみにここまでの話はすべて原稿ができている前提である。手応えある原稿を完成させる大変さは紙でも電子でも何の変りもない。

次回はセルフ出版した電子書籍を「どう売るか」を考える。
本は作って終りではなく、読者に届いて初めて生命を持つものだからだ。
<セルフ出版のキンドル電子書籍は売れるか?>

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※「電子書籍が紙書籍に勝る点は何か? 劣る点は何か?」を斎藤雨梟オーナーが詳しく探求しています。こちらもぜひどうぞ。「紙書籍大好き・アナログ派のための電子書籍事始め(2)」


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