『JAZZ DOG ジャズドッグ~こいぬのハリーがゆめみたおんがくかい~』
マリー・フォークト 作 ひびのさほ 訳 世界文化社
まず設定がユニークで面白いのです。
「いぬはみんな、ロックが好き。ねこはみんな、ジャズが好き」
そんな世界で子犬のハリーはジャズに惹かれます。犬仲間がみんな好きなロックではなく。
「ぼくがすきなおんがくは みんなとちょっとちがうみたい」
こういう悩みを持ったことのある人は多いでしょう。というか持ったことのない人はあまりいないでしょう。だって私たちは一人ひとり違う人間なんですから。
そのときどうするか。それが問題です。みんなに合わせる? でもそれで本当に幸せになれるのでしょうか?
ハリーはなかなか勇気のある子犬です。
「みんなに へんなめで みられても へっちゃら」
笑われても気にしないで自分の道を進むのです。
ハリーの行動は波紋を呼びます。犬はロック、猫はジャズ、と決めつけていた世間の常識が揺らぎはじめます。
一人の勇気がみんなを変える。そういうことはあると思います。絵本の中だけではなく現実にも。それはみんなの中にも変わりたい気持ちがあるからです。
もっと自由に、もっと自分らしく生きたい。でもまわりが気になって抑えてしまう。我慢してしまう。
そんなときハリーのような人を見たら「我慢しなくていいんだ。空気読まなくていいんだ。素直に自分らしくしていいんだ」と気づくきっかけになるはずです。
でも、みんなが空気を読まず心のままに生きると社会がバラバラになってしまうと思われるでしょうか?
そうではないということをこの絵本は描いています。一人ひとり違う個性が集まってこそ豊かなハーモニーが生まれるということを。
空気を読めという圧力がすっかり強くなってしまった今の日本では特に大事なテーマかもしれません。
「好きなものを好きと言っていいんだよ」
「まわりと違ってもいいんだよ」
子どもたちにそう言ってあげたいですよね。そのためにはまず私たち自身が自由にのびのび生きることなんでしょうね。
翻訳のひびのさほさんは、私の最初の訳書『とりとわたし』の共訳でお世話になった方です。もう10年前になるとは。月日の経つのは早いものです。
『とりとわたし』ケビン・ヘンクス作 ローラ・ドロンゼック絵
風木一人・ひびのさほ共訳 あすなろ書房
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