ペットかコンパニオンアニマルか。犬や猫の飼い主か家族か。

ともに暮らす動物は所有物ではなく家族

「ペット」という言葉にはちょっと抵抗がある。「飼い主」も他に言い方がなければ使うけれど積極的には使わない。なんというか、人間が主人で、猫や犬が「所有物」であるようなニュアンスを感じるからだ。

猫や犬は所有物ではないだろう。少なくとも食器や洋服のような所有物とは明らかに違う。食器や洋服は生きていないが猫や犬は生きている。違うのが当たり前だ。
ぼくはムギを所有物と思ったことはなく、家族だと思ってきた。

同様に感じる人が増えてきたからだろう、コンパニオンアニマルという言葉が生まれた。日本語に訳すなら「伴侶動物」。伴侶とは「ともに行く者」で人生の伴侶といえば通常配偶者を指す。つまりずっと一緒にいて支え合う家族のような存在がコンパニオンアニマルだ。

現実の人と動物の関係が変われば、それに合わせて言葉も変わるのは自然なことだろう。
しかし実際にはコンパニオンアニマルという言葉は日本に入ってきて20年以上経ってもまだ一般的とは言えない。だれもが普通に使う言葉にはなっていない。やはり単純に長すぎるからだと思う。もうちょっと短くてわかりやすい言葉があれば普及するのではないだろうか。

ナカライカオル イラストレーション

『わたし、捨て犬と出会う』から イラスト:ナカライカオル

殺処分はゼロにしなければならない

言葉はじゅうぶんには変わっていないけれど人々の意識は変わった。それによって大きな変化が生じた。
ひとつは殺処分の激減だ。

2003年、日本では年間に50万頭、一日平均1370頭の犬と猫が殺処分されていた。とても信じられないような数字だが事実だ。
それが2019年には年間4万1948頭、一日平均90頭と、10分の1以下に減っている。
全国の動物保護ボランティア団体(個人も)と自治体の大変な努力の結果だと思うが、それを支えたのはより多くの人の意識の変化、動物の生命を大切にしたいという願いの広がりだろう。

元来野生の犬や猫はいない。殺処分されるのはすべて無責任な人間が捨てた動物とその子や孫の動物だ。捨てる人がいるから野良猫や野良犬がいて、その一部が捕獲され殺される。
ペットの猫や犬が所有物のように思われていた時代には、罪の意識なく簡単に捨てる人が多くいた。「所有物だから」いらなくなったら捨てるのだ。割れたお皿のように、流行おくれの洋服のように。
犬や猫がコンパニオンアニマル、家族同然の存在だと思えば捨てることはありえない。かわいくなくなったから、大きくなりすぎたから、病気になったから、そんな理由で家族を捨てる人はいないだろう。

上にあげた数字は『わたし、捨て犬と出会う』(北野玲著)による。この本の初版は2004年に愛育社から刊行された。その後長く絶版状態にあったが、この度ホテル暴風雨の出版レーベル「ホテルの本棚」から新装復刊することになった。

わたし、捨て犬と出会う 北野玲 ナカライカオル

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北野玲さんは古い友人で現在も当ホテルに連載を持っていただいている。<1666号室「魔談」>

ぼくはこの本を読みかえし「これを絶版にしておいてはならない」と強く感じた。
2004年と比べれば激減したとはいえ、年に4万頭を超える殺処分はおそろしい数である。まだ生きていける生命を人間の勝手な都合で奪っているのだ。4万頭も。そんなことが許されるはずはない。殺処分はゼロが当たり前、ゼロにしなければいけないものなのだ。

『わたし、捨て犬と出会う』は保護犬を引き取って共に暮らした人たち15名にインタビューして作られた本だ。
北野さんはすべての人に、どんな出会いであったか、なぜ引き取ったか、引き取った後にどんな日々が待っていたか、じつにていねいに聞きとっていく。写真とナカライカオルさんのイラストを見ながら読むと、15組の人と犬の暮らしが今そこにあるもののように生き生きと見えてくる。
その温かさと尊さはいかばかりか。
動物を決して捨ててはいけないこと、殺処分をゼロにしなければいけないことがすべての読者に伝わるはずだ。

ペットショップやブリーダーではなく保護動物を引き取る

殺処分をゼロにするためにいちばん大事なのは猫や犬を捨てないことだが、もうひとつ大事なのは、それでも捨てられてしまい保護された動物に、なるべく幸せに生きていける環境を用意することだ。
いま多くの動物保護ボランティアが、自治体の動物愛護センターなどで殺処分されそうになった犬や猫を引き取って里親を探す活動をしている。
『わたし、捨て犬と出会う』でインタビューを受ける人たちも多くはこのような動物保護ボランティアを通して犬たちと出会っている。
犬や猫と暮らしたいと思ったとき、ペットショップやブリーダーから購入する以外に、保護されて新しい家族を必要としている動物を引き取るという選択肢もあることは、ぜひもっと多くの人に知ってもらいたいことだ。それは命を救うことであることも。
保護動物を引き取るときにどんな手続きが必要になるかなど実際的なこともこの本には書いてある。

ぼくは18年前に初版を読んだときも深く感動した。しかし昨年愛猫ムギを失う経験をしたことで、テーマがさらに一段と身に染みて感じられるようになった。ムギも22年前、1匹の捨て猫だったのだ。
この本のメッセージは今もまったく変わらず大切であることを確信したから、北野玲さんに復刊を呼びかけ、北野さんはそれに応えて、今年の前半お忙しい中時間を作り、各種困難を乗りこえて新装復刊にこぎつけてくれた。

殺処分ゼロの日が一日も早く来ますように。
『わたし、捨て犬と出会う』がそのための小さな一歩となりますように。

北野玲さんご自身による新装復刊の経緯は<こちら>から。

(by 風木一人)

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