なにわぶし論語論第29回「子路よろこばず」無言のプレッシャー

子 南子に見(まみ)ゆ。子路説(よろこ)ばず。夫子 之に矢(ちか)いて曰く、予の否とする所の者あれば、天 之を厭(す)てん、天 之を厭てん、と。(雍也 二八)

――――孔子は南子(衛国の王妃)に拝謁した。子路は、それを説ばなかった。孔子は子路に誓った。「もし私の行いに、認められないようなことがあれば、天が私を見捨てるだろう。天が私を見捨てるだろう。」――――

南子というのは衛国の王、霊公の妻だが、評判はすこぶる悪かった。ウィキペディアの解説によれば、宋の公子と不倫をしているという噂もあり、世間からは、ワルい女と見られていたようだ。歴史映画やドラマでは、孔子を誘惑する悪女として描かれていたとのことである。おそらくは子路も、孔子が南子に誘惑されるのではないか、また孔子が誘惑に負けて間違いを起こしてしまうのではないかと心配していたのではないだろうか。

ここで、「子路説(よろこ)ばず」とあるのが面白い。「子路諌める」でもなければ、「子路南子を問いて曰く、」でもない。ただ「よろこばず」である。

子路は、孔子の弟子の中では、勇猛、無骨、愚直で知られる人だ。孔子から「子路は剛強だ。あの性格では寿命を全うできないのではないか」(先進十三)と言われ、事実、後に戦死している。論語に登場する回数は弟子の中でもトップクラスだが、そういう性格であるから、しばしば孔子に反論したり(子路三、先進二三。先進二三では孔子を言い負かしている)、食ってかかったり(衛霊公二)している。

その子路が、「説(よろこ)ばず」である。
おそらく、孔子の前ではブスッとした顔をして、ろくに口も聞かなかったのではないか。
まあ、問題が問題だけに、子路としても、孔子に面と向かって詰問はしにくかったのだろう。
しかし、何も言われない分、孔子としてはますます居心地が悪かったのではないだろうか。

「最近、子路の様子がおかしいな。怒ってるみたいだな。何を怒ってるのかな。私のことかな。いや、私は子路に怒られるようなことは何もしていないぞ。でも、やっぱりあのことかな。いやしかし、私は子路から、いや誰からも、後ろ指を指されるようなことはしていない。していないのだがしかし・・・」

そしてとうとう孔子はたまらなくなり、子路の前に行って自ら誓いの言葉を口にすることになる。ここでまた、「天 之を捨てん」を二回繰り返してしまうあたりに、勢い余った感じが出ていて、なんとも良い。

君子は辛いのである。

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