なにわぶし論語論第65回「其の位に在らざれば、其の政を謀らず」

子曰く、其(そ)の位(くらい)に在(あ)らざれば、其の政(まつりごと)を謀(はか)らず、と。曾子曰く、君子は思うこと其の位を出でず、と。
(憲問二十六)

――――孔子が言われた。「ふさわしい地位に就いていなければ、政治のことをとやかく議論しない」。
曾子は言われた。「君子は、考えることが自分の地位にふさわしい範囲を出ないものだ」――――

前半が孔子の言葉。後半は孔子の高弟の一人で、「孝経」で有名な曾子の言葉。二人揃って、「下っ端は政治に口出しするな」と言うのだろうか。
現代の感覚では、とんでもない話である。いくら偉いとはいえ、やはり封建制しか知らない人は、こんなものなのだろうか?
ちょっと変ではないか? 孔子自身、下積み生活が長く、国政に関われるようになったのは50歳を過ぎてからである。(その後2年ほどで行政の中枢を離れるが、その後も「大夫格」ということで、一応王に対して意見を具申することはできたようである。)
彼が、50歳を過ぎるまで国政について何も語らなかったというのか? また、彼には政治家、官僚を目指す大勢の弟子がいた。彼らと、実際の政治について何も議論しなかったというのか?

たしかに、孔子は現実の政治に関する議論には慎重だったのかもしれない。論語は、孔子の言行録だが、そこで語られている孔子の言葉は、大部分は「君子とは」「臣とは」といった一般論である。現実の政策について語られているのは、王や王の重臣に対して意見を具申している場面か、そういった重臣に仕えている自分の弟子に向かって意見を言っている場面である。

「其の位に在らざれば、其の政を謀らず」「君子は思うこと其の位を出でず」とは、「評論家気分で議論に興じるな」「今の自分にできることを考えなさい」と言うことかもしれない。
そう考えると、もっともなことなのだが、それにしてもちょっと極端な物言いである。言葉に、なんとも言えないピリピリ感があるのはなぜだろう?

孔子や彼の学団に対しては、外部から「出来もしないことを言う」とか「口先ばかり」という中傷もあったようである。そういうこともあって、孔子たちは危機感を持って、弟子たちの上滑りな議論を戒めたとも考えられる。

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