老化と介護と神経科学10「介護者の個性と元気」

前回、習字のことを書いた。私は、大人になってから数年間、書道教室に通ったことがある。1年ほど前にやめてしまったのだが。

書道の初心者にとって、習字とは、まずお手本を写すことである。先生が書いてくれたお手本通りに書くように努力する。そうすることで、字の形や書き方を覚える。うまく書けると、先生が丸をつけてくれる。うまく書けていないところは、朱で直される。
そうして何回も練習していると、だんだんお手本に近い字が書けるようになる。だが、その頃になると、先生からまた別のことを言われる。
「元気がない」「もっと元気を出せ!」

書道初心者の習字は、「形を整えれば元気がなくなり、元気を出すと形が崩れる」の繰り返しである。
中級者になって、形が崩れる心配が少なくなると、どう元気を出すかが中心的な課題となる。あとは字配りか。私はその段階まで行っていなかったので、いつも形を整えるのに四苦八苦していた。

親の介護に関わるプロの人たち(施設の介護士さん、訪問ヘルパーさんなど)を見ていると、やはり若い人とベテランさんの違いは、元気の良さのような気がする。いや、必ずしも年齢で変わるわけではないかもしれないが、いかにもベテラン風の人と、新人っぽい人がいるのだ。
新人さんたちも、もちろんきちんとした丁寧な仕事はしてくれるのだが、なんというか、きちんとしすぎて元気がないように見えることが多い。そして、その人がどういう人なのか、個性が見えにくい。どの人も同じように見えてしまう。それに対してベテランさんは、元気な人が多い。声が大きいし、おしゃべりも多い。そして、それぞれ個性がくっきりしている。私はそれを「介護者臭い」と言っている。

いろいろな職業に、「〇〇臭さ」というのがある。学者臭い人、芸術家臭い人、営業臭い人。「臭い」というと悪い印象だが、要するに、その職業の人に期待される態度を自然に身につけているということだろう。
「介護者臭い」というのは、分析的に書けば、
1)いつも元気
2)声が大きくて、ゆっくり話す
3)相手の話をゆっくり聞く
4)相手の要求に応えるのではなく、相手に良いことをする(嫌味のない押しの強さ)
といったところだろうか。

介護の場面というのは、ヘルパーの側から見れば仕事であるが、介護を受ける側から見れば、生活そのものである。生活で関わる人は、やはり元気があって、積極的に関わってくれる人の方が気持ちが良いだろう。

気になるのは、若い介護職の人たちに、「もっと元気を出せ!」と言ってくれる「先生」はいるのだろうか、ということである。
時々ニュースで、介護現場での事件や不祥事が取り上げられる。そういうことがあると、とかく規則を守ること、きちんとすることが強調されがちである。きちんとするのは良いことだが、それでみんなの元気が無くなっては仕方がない。介護職の人たちには、どうか元気よく働いてもらいたいと思う。
って、これは介護以外の仕事でも同じですね。

(by みやち)

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