先日、AIの研究をしている人の話を聞く機会があった。その人の主要な研究の内容は、我々非専門家には難しすぎるということで、主に彼が生物学者と行っている共同研究の話を聞いた。サルの鳴き声の研究だ。
サルに限らず、動物の鳴き声の研究というのは古くから行われているが、基本は皆一緒で、まずは研究者が鳴き声をたくさん聞き、そのパターンを分類することから始まる。
学会発表や論文にするときは、音を聞かせるわけにはいかないから、音の波形のグラフや、周波数スペクトルのグラフを使って説明する。しかし、元々は研究者が自分の主観に従って分類しているのであり、他の人が説明を読んでも、よく分からないこともあるらしい。
また、鳴き声の聞き分けというのは、経験を積まないとなかなかできないものだそうだ。そこで、その作業をAIにやらせれば、非熟練者でも研究ができるし、一定の客観性も担保できるというわけだ。
生物学の研究には、こういう熟練者の目や耳に頼る作業というのは結構多い。こういう作業をAIに任せられたら、どんなに良いだろう。
しかし、逆に考えると、AIというのは癪に障るものである。人が何年もかけて身につける技術を、数分だか数日だかで身につけてしまうのだ。(その「仕込み」には、技術者が何週間あるいは何ヶ月か働かないといけないのだろうが、それにしても。)
「熟練の技」というのは、最も人間的な事柄の一つだと思っていたが、それを機械があっという間にやってしまうのだ。やれやれ。
もっとも、試行錯誤し、経験から学ぶという人間の学習方法をコンピュータプログラムにしたのがAIなのだそうだから、これは当然の結果であって、文句を言う筋合いのものではないのだろう。
ところで、件のAI研究者の話では、AIは自分で試行錯誤して答えの出し方を見つけるので、AIがどのようにして答えを導き出すのかは、プログラムの製作者にも分からないのだそうだ。
どう考えていようと、正しい答えさえ出してくれれば良いようなものだが、そう言っていられない場合もある。例えば、医療の分野。画像診断をAIに任せて、「何故だか分からないけど、AIは癌だと言ってます」では困るのだ。
それでは困るから、AIの思考の道筋を分析するというのが、現在のAI研究の一つのトピックだという。なんかそれって、AIの心理学みたいだ。
そういえば、昔読んだSFに「ロボット心理学者」というのが出てきたな、などと考えたら、久しぶりにアシモフが読みたくなってきた。
(by みやち)
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