あいかわらず英語学習熱は高いようだ。
電車の車内広告には必ずといっていいほど、英会話教材の広告がある。数では、エステの広告に少し負けているようだが、とにかくたいていの車両にある。テレビでも英会話教材のコマーシャルをよく見る。コマーシャルの中では、その教材を使って英語を勉強し、海外で活躍するアスリートや、海外旅行先で現地人と話す人、外国人旅行者相手のボランティアガイドをした人の声などが紹介されている。
そういった英会話学習へのみんなの意欲の高まりを反映して、学校の英語教育でも、会話が重視され、大学入試にまで、リスニング試験が導入された。
会話の能力が、今の英語教育に期待され、学校や文科省も、その期待に応えようと会話教育に力を入れている。だが、それで本当に良いのだろうか?
私は、仕事柄よく英語の辞書を使う。IT嫌いの私はかなりしつこく紙の辞書を使い続けていた方だと思うが、さすがに十年くらい前に電子辞書に完全移行し、去年あたりからはweb上の辞書weblioを使うようになってしまった。(アナログ派・アナクロ派としては、完全な敗北である。)
使ってみると、なかなか便利だ。やたらと広告が多いのが目障りだが、無料で使える上、例文が豊富で使いやすい。
そのweblioのページの右の方に、広告と並んで「みんなの検索ランキング」と言う小窓があるのに、つい先日気がついた。見てみると、1位から10位までが、consider, appreciate, addressなど。学術論文で頻出する単語ばかりなので笑ってしまった。みんな、頑張ってweblio使って論文書いて(読んで)るんだな、と。
だがまて。このサイトは、日本人なら誰でも使える一般向けのサイトである。何でこんなに偏ったランキングになっているのだろう? 日常の英会話でこんな単語を使う人はまずいないだろう。読み物ではどうだろう? 学術論文でなくても、新聞の政治面や経済面の硬めの記事にならよく出てくるだろうか。
最近、英字新聞なんかこれっぽっちも読まなくなっていたのだが、久しぶりにNew York Timesの電子版を読んでみる。3つの短めの記事を読んだ限りでは、これらの単語は出てこなかった。それほど頻出単語というわけではないようである。ましてや、観光ガイドブックや、あるいは小説などの芸術的な文章には、なかなか出てこないのではないだろうか。
まあ、小説だと、論文や新聞記事のような常套句、定型文というのはあまりない(というか、意識的に避けられる)だろうから、ランキング上位に入る単語と言うのは少なくなるかもしれない。しかし、観光情報誌、生活情報誌などなら、けっこう頻出する単語と言うのがあっても良さそうだ。gorgeous, attract, stunning, must-go, best-buy, public transportation, district, atmosphere, suburbなどなど。
会話で使う単語なら、また全く違う品揃えになるだろう。そういった単語が上位に入らないと言うことは、多くの日本人は英語を、読み書き、それも学術論文などのかなり硬めの文章の読み書きのために使っていると言うことではないだろうか。
もちろん、これはweblioという、web辞書の検索ランキングだけから想像していることである。海外旅行者はみんな、スマホの音声翻訳機能を使っているのかもしれない。
しかし、「今日の英語教育では会話が最重要」というのを当然のこととして信じで良いのか、もう一度検討してみる理由としては十分だと思う。
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