「ここは盆栽のある世界」-盆栽入門前<0>

「盆栽フクロウ」の絵「盆栽の門より入れ」"Enter from the BONSAI gate" illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

「盆栽の門より入れ」”Enter from the BONSAI gate” illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

こんにちは。なぜフクロウの頭に盆栽が乗っているかは追い追いお話したいと思います。ひとまず、

盆栽はお好きですか

はじめまして。いきなりですが聞かせてください。
盆栽はお好きですか。

「好きかどうか考えたことがない」「盆栽のことなどよく知らないので好悪感情はない」「別に」という方へ:

まさに予想していた答です。つい最近まで、私もそうでした。でも、盆栽って聞いたことくらいはあるが、アレは一体何ぞや? 鉢植えとは違うのか? とモヤモヤしたことは一度ならずおありでしょう。この連載はそんなあなたとモヤモヤを共有し、せっかくだから楽しみつつ、時々スッキリ、基本もっとモヤモヤしようという読み物です。

「好き」「大好き」「ノー盆栽ノーライフ」という方へ:

ようこそおいで下さいました。私も初心者ながら今では盆栽好き。お仲間です。盆栽愛に溢れるあなたは、しかし盆栽を初めて知った頃の新鮮な驚きや素朴な疑問を忘れていませんか? この連載の目的のひとつは、右も左もわからず未知の世界へ入った時にしか味わえない面白さを記録すること。これを読んで、こんな時代もあったなあと、初めて盆栽と出会った頃のときめきやら失敗やらを追体験していただければ幸いです。

「嫌い」「盆栽なんてこの世から撲滅したい」という方へ:

そんな人はあまりいないのではと思っているのですが、断言はできません。盆栽嫌いにかけては人後に落ちない嫌盆栽派のあなた、勝負に勝つにはまず敵を知ることからです。本連載を隅々まで読んで入念に戦略を練ってください。「人類みな盆栽が好き」「盆栽超大好きな人しか読まないはず」などを前提とした強気なコンテンツに比べるとハードルが低い上役立つこと請け合いです。もっとも、負ける気はしないですが。

「盆栽? 見たことも聞いたこともない」「何それ美味しいの?」という方へ:

お待ちしておりました。この連載は、続けて読むと、盆栽が何なのか、美味しいのか、などがほどほどに分かってくる画期的なものです。

盆栽初心者、初心以前を思い出す

質問にお答えいただきありがとうございます。

改めましてこんにちは。私は好んで文章を書き、絵を描く者で、これから盆栽についてのあれこれを書きたいと思っています。

「盆栽入門前」というタイトルには、「盆栽入門」ではなくそれ以前という意味をこめました。盆栽の知識や育て方のノウハウを書こうというわけではありません。それも書けるに越したことはないのですが、私はそもそも初心者。盆栽について伝授できるような何も持ち合わせていません。強いて言えば、「盆栽とは何だ?」という長いモヤモヤ期を過ごし、些細なことほどよく覚えているたちなため、バリエーション豊富なモヤモヤをキープしていることがアドバンテージ。ですので、人並み以上に持つ些細な疑問と、執念深く覚えているこのモヤモヤを共有したいというのが本連載の趣旨なのです。つまり、初心者のくせに、初心者になるさらに前のことまで書こうという魂胆です。「前」だけでなく、盆栽入門前後やその周辺に発生する疑問や驚きや面白さを集めた、盆栽入門の「前後左右」のウロウロ探検記にしたい所存です。もう少し説明を続けます。

盆栽のある世界で

盆栽には潜在的な強い影響力と謎めいた魅力があります。日本で何年かを過ごせば、「盆栽」について一度は目にしたり耳にしたりするはずです。私が子供の頃見ていたテレビアニメ、それもいくつもの作品で、「おじいさんの趣味」として盆栽は定番でした。現在の盆栽愛好家に占める高齢男性率やら、高齢男性に占める盆栽愛好家率が実質どれだけかは知りませんが、住宅街を歩けば、庭や玄関の前、ベランダや塀の上などに盆栽を並べている家はすぐに見つかるので、愛好家の数自体は今も多いと思われます。近頃は若い人にも人気があるとか、海外で人気があるという話も聞き、確かにおしゃれな雑貨店や園芸店に小さな盆栽が置いてあったり、外国の映画にさりげなくスタイリッシュな盆栽が飾られたシーンがあったりします。にも関わらず、身近に盆栽を育てる人でもいない限り、盆栽とはつまり何なのか、さっぱりわからないのです(私がまさにそうでした)。

盆栽には「潜在的な影響力」があると書きました。それはたとえば、普段盆栽のことなどまったく考えないにも関わらず、変な形のオブジェを見ると「盆栽みたいだな」と思ったり、外国映画に日本趣味のアイコン的に「盆栽好き」という設定の人が出てくると「ニンジャ好き設定よりほんの少しマニアックなところが絶妙だ」という気がしてなぜかポイントが上がったり、食べかけの串団子の串が折れてしまったのを機に、こうなったら盆栽の形にしてやろうとムキになってしまうようなことです。ありませんか、そういうことが。そしてふとした時に、「盆栽って何だろう」「盆栽って〇〇に似ている」などと、知らず脳内を占拠し、日常生活にはみ出しがちな感じがあること。

つまり、ここは盆栽のある世界であって、盆栽をないことにはできないのです。よく知らない人の目にはハッキリ映らないにも関わらず、その影響からは逃れられないのが盆栽。そして盆栽を育てはじめて多少のことを知った気になっている初心者(つまり私)にとっても、麓に広大な樹海があるのはわかれど、山頂の姿など雲の向こうに霞んで見えない、遭難スポット満載の魔の山みたいな存在が盆栽。

そんな盆栽の謎めいた魅力について、書いていきたいと思います。どうぞよろしくお付き合いください。

<今日の盆栽メモ>(今のところ私の中で)最新の盆栽映画

『DUNE 砂の惑星』(amazon へリンク)

『DUNE 砂の惑星』(ドゥニ・ヴィルヌーブ監督 2021年公開)

冒頭、主人公ポールが食事をする部屋に盆栽らしきものを確認。映像美にクラクラする映画で、むろん部屋も盆栽も美しい。

舞台は、魔法にしか見えない科学技術が存在する未来。しかも謎の巨大生物がいたりする地球外の惑星。宇宙船や宇宙生物にチープなハリボテ感があると台無しになりがちなのがこの種の映画だがそんな心配は無用な作品。新しい、しかも膨大な制作費のかかった大作なのでCGが凄いのは言うまでもないけれど、見たことのない世界をリアルに感じられるか(現実に似ているかと言うより感触をありありと感じるかという意味で)、というのは必ずしも設定が精密で破綻のない映像で再現されているかに依存するわけではない、と思わされる。じゃあ何? と聞かれると、映画の撮り方などまったくわからないので「センス?」とか寝ぼけたことしか答えられないのが残念だ。同監督の『メッセージ』『ブレードランナー2049』も独特の映像美が素晴らしかったが、本作品ではスケールアップ感がすごい。普通の2D映像なのにVRみたいな没入感があった。
本作品で盆栽が登場するのは一瞬だが、この監督に盆栽映画を撮ってほしいものだと妄想。


次回は「盆栽との出会い方」についてです。お楽しみに!

(by 斎藤雨梟)

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