「盆栽とは何なのか」「庭ねこ、盆栽を知る」-盆栽入門前<3> 

こちらの記事は「盆栽入門前」:盆栽初心者による、盆栽入門前後のモヤモヤと驚きを共有する盆栽イラストコラム の3回目です 連載紹介の第0回はこちら、バックナンバー一覧はこちらです。
盆栽フクロウが床の間に現れるGIFアニメーション

盆栽フクロウ床の間に出現 illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

今日は、結局のところ、盆栽って何? と考えます。連載3回目にして本質に切り込むわけですが、ご心配なく。スッキリ解決はしない、モヤモヤのグランドオープンです。

ではまず、前回とんでもない創作盆栽を作って怒られた庭ねこのモヤモヤ体験をご覧ください。

盆栽フクロウと庭ねこ 「庭ねこ、盆栽を知る」

庭ねこ、ついに「盆栽」という言葉を知ります。

「盆栽とは、木を鉢に植えてかっこいい形に育てること」という説明(たぶん、大きく間違ってはいないのですが)を聞いたものの、どうも釈然としない様子です。

盆栽と鉢植えの違い

庭ねこ同様、説明だけ聞いても釈然としないのが盆栽というもの。

どうしてなのか、そして盆栽とは何なのか、考えてみました。

盆栽とは何か? という問いを立てると浮かぶ疑問が、「盆栽と鉢植えは違うのか?」ではないでしょうか。

地植えの樹木は盆栽とは言いません(アヴァンギャルドな解釈の盆栽はあれど、「地植えの盆栽もあり」「地球そのものが大きな鉢だ」などという記述も言っている人も見たことがないので、これは断言して良いのでしょう)。鉢に植えられていてこそ盆栽(※)。ここまでは極めて明解です。
ですが、その先で急にわかりにくくなるため、「盆栽と鉢植えの違い」に焦点が合いやすいのだと思います。

※注)鉢から出して根を見せて飾る・石に植え込むというスタイルの盆栽もあったり、根を土ごと苔で覆う「苔玉」も盆栽のうちなので、厳密には鉢はマストではないらしいですが、ひとまず「地植えではない」くらいの意味でこう考えます。

鉢に植えられていれば何でも盆栽かというと、そうでもない。そのことに、おそらくすべての盆栽シロウトたちが気づいています。ただ、気づきはするものの、よくわからない。

盆栽とは何か、盆栽と鉢植えの違いは何か。

実はこの問いには、盆栽家など様々な専門家が答を出してくれています。どれも同じではありませんが、人それぞれ盆栽観があって当然なところを、むしろ極端な違いはなく驚くほどです。ゆえに、一般的な正解を出すのはわりと簡単です。

ですが、先にそれを書くのはやめておきます。私が面白いと思ってお伝えしたいのは、そこではないからです。

「盆栽の定義」的な説明がなくても「これは盆栽っぽい」「これはちょっと違うのでは?」などと、見分ける目を私たちはすでに持っていないでしょうか? 私が今回、言いたいことはこのへんにあるのです。

説明は後です、さっそく実験をしてみましょう。この記事を読んでいるパソコンやスマートフォンをそのまま使ってできる実験です。

実験:盆栽を探せ!

盆栽のことをよく知らない方は、今がチャンスです。知識をつける前に試してください。

盆栽好き、盆栽には一言あるぞという達人や盆栽家の方は、初心を思い出しシロウトの気持ちを想像しつつ、あまりハッキリ画面を見ず知識も駆使せず、薄目遠目の直感でやってみてください。

まず、「鉢植え」の写真や絵のたくさんある画面、それも「盆栽ではない鉢植え」の中に「盆栽」が混ざっている画面を見てみましょう。

そういう画面を用意する方法はいろいろありますが、おすすめは、Googleの画像検索です。

検索ワードにやや工夫がいります。以下のAグループとBグループの言葉を各一個、合計二個を検索窓に入れて画像検索をするといい具合です

Aグループ:「観葉植物」「鉢植えの木」「鉢植え」など鉢植え植物を表す言葉
Bグループ:「瀬戸焼」「信楽」「萬古焼」など盆栽鉢によく使われる焼き物の種類

この方法だと、「盆栽ではなさそうな鉢植え」「鉢のみ」の画像の中にほどよく「盆栽っぽい鉢植え」の画像がちょうどよく混ざるのです。

たとえば「観葉植物 瀬戸焼」と検索窓に入れて画像検索した結果がこちら

とはいえ、時々刻々と変わるのが検索結果というもの、今ひとつ鉢植えも盆栽っぽいのも出ないという場合、他の候補で試してください。「盆栽」のつく言葉を入れて検索すると、一見して「盆栽っぽい鉢植え」の画像が圧倒的多数を占めてしまうので不向きで、盆栽っぽいけど盆栽じゃないワードを入れるのがポイント。

さて、スクロールしながらこれら画像を眺め、たくさんの鉢植え植物の中から「これが盆栽だ」というのを、いくつでも探し出してください。ウォーリーのかわりに盆栽を探すゲームです。ひとつずつ見ていくと、「これは盆栽」「これは違う」と、わりとパッと判別できないでしょうか? たまに「これは何となく、盆栽っぽいけど違うような」という、グレーゾーンの画像もあるでしょう。

盆栽は何個見つかりましたか?
それらの共通点は何ですか?

やってみると、鉢に植えてある木を目にした時、盆栽 or  Not 盆栽 を見分ける自分のポイントが見えてくることと思います。

それをうまく言語化できないことが盆栽七大モヤモヤの第一では? と私は思うのですが、ハッキリはしないものの、だいたいこんな感じではないでしょうか。

  • 渋い色合い、もしくはシンプルでモダンな陶器の鉢に木が植えられている
  • きっちり手入れがされていて、樹形や葉っぱの刈り込み方が装飾的
  • 全体に日本っぽい、または東洋っぽい雰囲気

判定基準が違うという方ももちろんいらっしゃるでしょうが、それは今、本題ではないのでさておきます。「正解かどうか」も、今はどっちでもいいです。

盆栽をよく知らない場合でも、「全部盆栽に見えた」「全部ただの鉢植えに見えた」ということはなく、「よくわからないけど」「何となくだけど」盆栽っぽいものとそうでないものに分けられませんか。もしくは、より盆栽らしいものと、まるで盆栽らしくないものとのグラデーションを感じませんか。

その「感じ」を、ちょっと覚えておいてください。

さて、では盆栽って何でしょう。

盆栽と鉢植えの違いとは、結局?

盆栽っぽい鉢植えが盆栽である?

では改めて、現在、一般的に言われている最大公約数的な盆栽の定義を書きます。

植物を鉢に植え、小さな鉢の中に自然の木の姿やそれが育った風景を表現し、幹、枝ぶり、葉、根などを総合的に観賞する目的で育て、手入れをし、仕立てるもの。

(盆栽の定義A)

私が複数の盆栽入門書やネットの盆栽ガイド記事から抜書きし、共通する部分をまとめたものですが、いかがでしょう。何となくそれなら聞いたことがあるとか、意外と単純で普通だなと思った方は多いのではないでしょうか。

この説明で腑に落ちるポイントは多々あります。たとえば、観賞目的なので、食べるための野菜を植えたプランターは盆栽ではなさそうです。自然の木の姿やそれが育った風景を表現、となると、芽吹いて間もない草花の苗も盆栽ではないでしょう。

これを盆栽の定義Aとします。

では、先ほどの「盆栽を探せ」実験を思い出してください。「これは盆栽っぽい」と思った鉢植えは、上の定義に当てはまっていますか? 「盆栽っぽいけど違うような」というグレーゾーンにいた鉢植えは、この定義Aで白黒ハッキリ、盆栽かそうでないかがわかりましたか?

どうでしょう、依然として「グレー」なものが残らないでしょうか。

この定義、じっくり考えるほど、「言葉の意味はわかるが盆栽のキモをズバリと表せていないのでは」とモヤモヤするのです。
私は、そうでした。少なくとも、「点と点の間を最短距離で結び、長さがあるが幅のない図形を直線と呼ぶ」というような数学的なスッキリした「定義」とはほど遠い気がします。

今では、いろいろな立場の人の「これが盆栽」「これは盆栽ではない」という意見の違いやその背景、理由が何となくわかるようにはなりました。ですが、納得しているわけではありません。

結局、長きにわたってモヤモヤし、調査し、考えたひとつの到達点、私なりの盆栽の定義はこれです。

盆栽とは、「何となく盆栽っぽい」と感じさせる何かがある鉢植えのこと。

(盆栽の定義B)

それが単なる鉢植えと盆栽を分かつものです。こちらを盆栽の定義Bとします。

ちょっと待て、そんなわけあるか? それでいいのか? ふざけてるの? と思わず立ち上がりたくなったでしょうか。

定義Aにモヤモヤしませんか? と聞いておいて、何なんだこの、それどころじゃないモヤモヤMAXは!? さっきのやつの方が全然マトモだ、と怒りが込み上げてきたあなた、そりゃそうだ、ごもっともです。私もそう思います。

だいたい、盆栽っぽいのが盆栽だ、では循環論法的にもほどがあり、説明になっていないのはわかっているのです。

しかし。
しかし、それでも。

定義Aには欠落しているとても重要なものが定義Bには含まれています。

盆栽を説明するときに、定義B的なものが必ず必要だと思う理由があるのです。言うに事欠いて「盆栽っぽいのが盆栽」だなど、何でこんなひどい屁理屈を言い出すのか、次回はその理由を書きたいと思います。

今日の盆栽メモ 「盆栽っぽさ」について考えさせられるグッドデザイン

BONSAI PUZZLE (Amazon にリンク)

前回に続き、盆栽おもちゃを紹介したい。「盆栽」関連の検索で見つけたもので、実物は見たことがないが、何でも売ってるでお馴染みの Amazon で売っている。写真は「梅」だが、「松」「椛(もみじ)」と3タイプある。商品写真豊富で説明も多いので見ていると楽しい。盆栽の定義Aに基づくとこれは盆栽ではない。もちろんパズルであって盆栽ではないのだから当たり前。だけど盆栽っぽい。このデザインが抽出している「盆栽っぽさ」を、なかなか言い表せるものではない。 ちなみにこのパズル、決まった形を作るのが目的ではなく、好きな形に作って遊べるらしい。これまた欲しくなるおもちゃ。


最後までおつきあいありがとうございます。
次回「盆栽の定義B」でぜひまた、お会いしましょう。

(by 斎藤雨梟)

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