雲笛(くもぶえ)
うちの雲がいよいよ古くなってきたようで、歩くとたまに陥没したりする。
危ないので、新しいのと取り替えることにした。
雲笛を使うのは十年ぶりだ。大きく息を吸って、思いきり吹く。
ふぃろろろ〜ん
さわやかな和音が響きわたる。
猫とシシヤギが、雲笛を吹く私を見守る。
一時間も吹き続けて、ようやく手頃な大きさの雲がひとつ寄ってきた。
私は汗だくになっていた。
「今度は桃色だね」と猫が言った。
「引越しだね」とシシヤギが言った。
私は桃色の雲をしっかりと舫(もや)ってから、ひと息ついた。
家と庭木を移すのは明日にしよう。
(版画・服部奈々子/おはなし・芳納珪)
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