新春スペシャル!〈赤ワシ探偵シリーズ2〉ニフェ・アテス番外編「オールドアース訪問記」

※明けましておめでとうございます。お正月なので番外編をお届けします。こたつでのんびりお楽しみください。


「オールドアース訪問記」

今年は年末年始の休みが長いので、オールドアースの観光ツアーに申し込んでみた。すごい倍率の抽選だったが、ラッキーなことに当たって、行けることになった。ワープ航法を使って行くような遠いところは初めてなので、ウキウキして出発した。

ワープを終えてオールドアースの惑星系に入ると、中継ステーションでオールドアース型の宇宙船に乗り換える。私たち乗客の服や持ち物も、オールドアース製のものに取り替える。ニューアースの存在を彼らに知られてはならないからだ。

宇宙船は海上に浮かぶ立体都市『トキ市』の最上部の宙港に降り立った。リストバンド型の通信端末で常にツアーコンダクターとつながっているので、ここからは単独自由行動である。宙港の外に出ると、かなり蒸し暑かった。こちらの季節は夏なのだ。

まだお腹は空いていなかったので、まず「発掘博物館」を見学することにした。現地の観光客も多いので、初心者向けのスポットである。エレベーターで一番下まで降り、コンタクトレンズ型のAR(拡張現実)ナビが視界に映し出す矢印をたよりに歩く。

道の両側に、売店が並んでいる。お土産だったり、歩きながら食べられるような食べ物だ。物品を持ち帰ることはできないので、串に刺した団子のようなものを一本買ってみる。団子よりも歯ごたえがあって、甘みはうすく、ほんのり潮の香りがする。

発掘博物館の入り口は、ピカピカ光る電球に縁取られていた。入場券を買って列に並び、館内専用の下りエレベーターに乗る。周りはカエル頭、鶏頭、猫頭、じつに多様な外見の新人類たちだ。家族づれが多いようで、みんな賑やかにおしゃべりしている。言葉は私たちと同じなので、会話の内容はよくわかる。

この博物館の目玉は、立体都市の下の方の、人が住まなくなって土砂などに埋もれてしまった部分を発掘した現場がそのまま展示されているところだ。
巨大な空間に歩廊が作られ、遺跡を横から見ることができる。部屋の中に、なんとなく懐かしさを感じさせる生活空間が再現されている。色は失われ、すべてが灰色だ。これほど古い時代の文明の痕跡は、ニューアースでは見ることができない。じっくり見学し、すっかり満足して博物館を出た。

思いのほか博物館に時間を取ってしまったので、お腹がぺこぺこになっていた。この近くで食べるところを端末で検索したが、あまりピンと来るものがない。そこで、西区に移動することにした。西5塔にある「ト号歩廊」は夕日の絶景スポットで、その周辺にはおしゃれなレストランから大衆食堂まで、よりどりみどりらしい。

東区から西区へは歩いていくこともできるが、電車もある。鉄橋の上をガタゴトと音を立てて走るかわいらしい車両だ。水平線を眺めながら、つかのまの列車の旅を楽しむ。

西区は、小ぎれいな印象だった東区とは違って、雑多で賑やかな雰囲気だ。公園の屋台で紙袋に入ったポップコーンのようなものを買い、空腹をなだめつつ西5塔に向かう。
ARナビの矢印に従って路地を行くと、あったあった。

「月世界中華そば」。さっき飲食店を検索したとき、何よりもその店名にひかれた。外観はあまり流行っている感じがしないが、思い切って暖簾をくぐった。

和菓子の黄味餡みたいなおかみさんが出てきて、注文を取った。壁にかかったメニューの木札には「火星担々麺」「金星餃子」「シリウス炒飯」などもあったが、迷わず店名になっている「月世界中華そば」を頼んだ。
ほどなくして出てきたのは、なると(みたいなもの・以下同様)、シナチク、海苔が茶色いスープに浮いた汁麺だった。パキンと割箸を割って、食べ始める。
コシのある縮れ麺に、醤油味に似た香ばしいスープが絡まって、感動するほど美味しい。
こちらへ来てから食べた団子もポップコーンも、まずくはないが味が薄めで、なんとなく物足りなさを感じていたのだが、この関東風の味は私好みである。

食べ終わって会計をするとき、おかみさんに、とても美味しかったと伝えた。
「ありがとうございます。先祖伝来の味なんですよ。向かいの旦那には『しょっぱい』って言われますけどね。ええ、いえ、それでも毎日きてくれるからありがたいんですけどね」
おかみさんは陽気に言うと、巨体を揺すって笑った。

店を出て正面を見ると、サボテンの温室があった。
……いや、どうやら違うようだ。古びた外観とは不釣り合いな新しい看板がかかっており、「探偵」の文字がどうにか読める。こちらの文字は、話し言葉に比べると、私たちのものとはかなりかけ離れているのだ。
文字の横には、眼光鋭い赤ワシ人のイラストが描かれている。もしかしてこれが「向かいの旦那」なのだろうか?

そろそろ夕方なので、「ト号歩廊」に向かった。
建設当時そのままの、曲線的な装飾を施した長い橋は、すでに恋人たちで埋まっていた。
熱々の彼らの間にひとり挟まって、金色に輝く海の向こうに沈む真っ赤な夕日を眺める。
まわりはすべて海。トキ市は他のどの立体都市からも離れているので、一番近い都市でも水平線の向こうにあって見えないのだ。
なんとなくしんみりしてしまって、太陽が沈みきる前にその場を離れた。

夕食は、エレベーター駅前の飲み屋街にしようと思った。中華そばをがっつり食べた後なので、何か軽くつまみながらお酒を飲むくらいがちょうど良さそうだ。
あちこち歩いて慣れてきたのもあって、ナビの示すルートを少し外れてみようという気が起きた。ちょうど、細い路地があったので、そこへ入ってみた。とたんに、視界に黄色い警告が出る。

配管がむき出しになった、いかにも裏路地といった雰囲気だ。人通りもない。
ちょっとここはまずいかな。そう思ったとき、後ろからシュッと足元をかすめたものがあった。
エッと思ってキョロキョロすると、今度は鼻先を横切って、前方の配管の上にとまった。
ARがその物体を◯で囲み、危険の文字を出す。ニワトリぐらいの大きさの、鮫のような生き物だ。カエルのような大きな後ろ足がある。
あわてて後ろを向いて路地を飛び出ると、ボフッと何かにぶつかった。

うわっ、ごめんなさい!

動転して顔を上げ、金色の鋭い瞳と目があった。
トレンチコートを着た赤いワシ。
「大丈夫ですか」
魅力的な低音ボイス。間違いない、さっきの看板の「旦那」だ。赤ワシ探偵。

はい大丈夫ですと答えると、
「マメリクザメを見ませんでしたか?」と聞かれた。さっきの危険生物に違いないと思ったので、とりあえず頷くと、探偵は帽子のつばに手をやって「ありがとう。失礼」と言うが早いか、路地へ駆け込んでいった。
しばらくぼうぜんとしてしまった。ハッと気がついて路地をのぞいてみると、あの危険生物も赤ワシ探偵もいなくなっていた。

端末でさっきの映像を呼び出し、表示された情報を落ちついて読んでみた。

※危険生物※【マメリクザメ(豆陸鮫)】ペットとして飼うことが流行っているが、ハーネスをすり抜けたり、リードを噛みちぎって逃げてしまう事件が多発している。小さいが獰猛な生き物で、鋭い歯で襲われると大怪我をすることもある。絶対に近づかないこと。

肝が冷えた。もし事故が起きたら、すぐに旅行会社のドローンが回収してくれることになっているが、そんなことにならなくてよかった。

まだドキドキする胸を抑えながら、飲み屋街に向かって歩き出した。赤ワシ探偵かっこよかったな、と思いながら。

☆     ☆     ☆     ☆

番外編お楽しみいただけたでしょうか? ニューアースとオールドアース。赤ワシ探偵が活躍する世界の背景が垣間見られましたね。来週からはまた謎めいた「ニフェ・アテス」をめぐる物語に戻ります。お楽しみに!

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