赤ワシはタカではない by 芳納珪

挿絵:服部奈々子

挿絵:服部奈々子

先週で、「赤ワシ探偵シリーズ2 ニフェ・アテス」の連載が終了しました。
お読みいただいた皆様、どうもありがとうございました。
さまざまな動物の特徴を備えた人間たちが暮らす無機的な立体都市で、レッドイーグル探偵社に舞い込む事件を、赤ワシ探偵がときには体を張って、ときには風変わりなテクノロジーを使って解決する。「ハードボイルドSF童話」と銘打ったのは、いろんな要素を入れて荒唐無稽な面白さを描きたかったからです。その狙いが、少しでも功を奏していれば幸いです。

さて、真っ赤なワシというのは現実にはいません。ですが以前、アメリカに住んだことのある知人に赤ワシ探偵の絵を見せたところ「あっ、これカーディナルでしょう?」と言われました。
そのとき私はカーディナルを知らなかったので、「赤ワシに似た鳥がいるのか」と興味津々で調べたところ、本当に真っ赤な、とても美しい鳥でした。日本語では「ショウジョウコウカンチョウ(猩々紅冠鳥)」というそうです。大きさが20センチちょっとぐらいとのことなので、赤ワシ探偵よりはだいぶ可愛らしいですね。

鳥のことを考えると、私はいつも気分がそわそわと浮き立ちます。だって彼らは電車賃もパスポートも持たず、国境など関係なく、自分の力でどこへでも飛んでいけるんですよ。ちょっと想像するだけで、わくわくします。まあでも、決まった季節に移動しなければならなかったり、隊列を組んだり、意外と「自由」ではないかもしれないですけれど。

可愛らしい小鳥も好きですが、かっこいい猛禽類にはまた違った種類の憧れを抱きます。東京でも山の方に行くと、悠々と羽を広げてトンビが飛んでいます。なぜ遠目でトンビとわかるかといえば、歌でも有名な「ピーンヨロー」という鳴き声と、「この辺りにいるのはだいたいトンビだ」と誰かから教わったからだろうと思います。
だから、ひょっとしてそれがトンビではなくタカとかワシであったとしても、見分けることはできないかもしれません。もし、もっと自然が豊かな土地に行って、空を猛禽類っぽい鳥が飛んでいたら、トンビかタカかワシか、どうやって見分けるのでしょうか。
調べてみると、トンビ(鳶)はタカの仲間であることがわかりました。では、タカとワシはどう違うの?

そこで思い出したのが、二年前に旅行したサンフランシスコでの出来事です。
私はそこに住むアーティストの友人を訪ねて行ったのですが、彼女の友人の天文学者が、車で郊外へ連れて行ってくれました。サンフランシスコは三方を海に囲まれた小さな街で、橋を渡って対岸に行くと、ぶどう畑や国立公園といった、のどかな風景が現れます。
それまで、アメリカはニューヨークにしか行ったことがなかったので、アメリカの自然を見るのが楽しくて、何か珍しい植物や動物を見つけようときょろきょろしていました。
空の高いところを、翼を大きく広げた鳥が飛んでいるのを見つけたので、指をさして「Eagle?」とたずねました。すると天文学者が「いや、あれはhawkだろう」と答えたのです。
それまで、英語のeagleはなんとなく猛禽類全般を指すように思っていたので、あっ違うんだ、とハッとしました。

eagleの訳は「ワシ」で、hawkの訳は「タカ」です。そこで先ほどの「ワシとタカの違いは何か?」という問いにつながるのですが、実はこれ、明確な違いはないそうです。あえていえば、違いは「大きさ」。タカよりもワシの方が大きいのです。
アメリカの国鳥はハクトウワシです。体長は1メートル、翼長は2メートルにもなるそうです。天文学者の彼は、私が「eagle」と言ったとき、ハクトウワシの堂々たる姿を連想したのかもしれません。それなら、目の前の空にいる鳥を見て「eagleほど大きくはない。あの大きさならきっとhawkだ」という思考が働いたのは、うなずけることです。

ワシとタカには、はっきりと定義された違いはない。でもやっぱり、赤ワシは赤ワシで、決して赤タカではないなあ……と思うのです。

(by 芳納珪)

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『水神様の舟』

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