電気売りのエレン 第7話 by クレーン謙

フレムは僕の話を、白い顎ヒゲを撫でながら聞いていた。
抜け目のない顔で、少しニヤニヤしながらフレムは言った。
「よし、そうなれば話は早い。エレン、先に行って馬車を走らせる準備をしてきてくれ。ワシもあとから、すぐに行くから」

フレムが、あまりにも早くに僕の申し出を受け入れたので、僕は驚いて目をパチクリさせた。
「いま、すぐですか?」
「そうだ、いますぐにだ。海まで行くには、ここから三日かかる。まだ日が明るいうちから、出発したほうがよかろう」

僕は、売れ残った電気の実を集めてカゴに入れ、そして市場の外に停めている馬車へと向かった。
市場の外側へ出た時、カボチャ売りのラグが息を切らせながら追いかけてきて、僕に声をかけてきた。
「おい、まてエレン!・・・おまえあの男についていくつもりか?」
「ラグ、僕らの話を聞いていたのか?」
肩で息をつきながらラグが言った。
「ああ、少しだけな。エレン、あの男には、あまりいい噂がないぞ!」
「・・・噂って、どんな噂だい?」
僕は少し不安になりながら、ラグに聞いた。

「市場での噂なんだが、あの男は『呪われている』と言われている。また別の人はあの男を『この世を裏切った』とも言っている。あの男には片腕がないだろう?きっと昔に、あの男はよからぬ事を成し、それで腕をなくしたに違いない!」

ラグの話を聞き、僕に気の迷いが出てきたけど、ここで引き下がる訳にはいかなかった。
なんとしてでも、僕は海に行き電気を手に入れなければいけない。
それに、いざとなれば父の形見のこのナイフが僕を助けてくれるに違いない、と僕は思っていた。
もっとも、お父さんには「このナイフで決して人を傷つけてはいけない」と言われていたけど・・・。

「ラグ、心配をしてくれて、ありがとう。大丈夫だよ。いざとなれば、僕は逃げるから!」
ラグはそこで、説得を諦め、心配そうに僕の事を振り返りながら、市場へと戻っていった。

しばらくして、フレムが電気が入ったたくさんの壺を背負いながら、やってきた。
フレムが馬車の側までやってくると、僕はジョーに言った。
「ジョー、お客さんを紹介するよ。こちらの方はフレムと言って、海からやってきた電気売りだ。
これから僕らはフレムと一緒に海へと向かう。・・・すこし荷台が重くなるけど、いいかい?」

僕が言うのを聞き、またジョーはいつものようにブルルッと鼻を鳴らした。
きっと「君のお客さんなら、いつでも大歓迎さ!」と言っているのだろう。
少なくともジョーは決して嫌な顔をしていなかった。

フレムは背負っていた壺を荷台に降ろし、慣れた風に荷台に乗り込んだ。
そして僕は、町から三日かかるという、海へと向かい馬車を走らせ始めた。
途中、町行く人々がフレムの事に気がつき、顔をしかめた。
確かにフレムはこの町では決して歓迎された人物ではないようだ。

馬車は町を取り囲む外壁から外へ出ると、暑い日差しを浴びながら南へ南へと向かっていった。
フレムは目指すべき方角と道筋だけを伝えると、あとは黙っていた。
きっと、僕が彼に対して警戒心を持っている事に気がついているのだろう。

しかし、フレムは途中に一言だけ僕に聞いてきた。
「エレン、おまえは字の読み書きはできるのかね?」

なぜフレムがそんな事を聞いてきたのか分からなかったけど、僕はジョーに繋がれた手綱を握りながら答えた。
「いえ、読み書きはできません。僕は、小さい頃からお父さんの手伝いをしていたので」

「フム・・やはりな。そうだと思ったよ」
フレムが僕の横顔を見ながら、小さくそう呟くのが聞こえた。
その後、僕らは何も語る事もなく、南へ南へと馬車を走らせ続けた。

――――続く

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