原始神母 Pink Floyd trips ライブレポート 2016

5月20日(金)、渋谷のライブハウス、TSUTAYA O-nestに行った。(2017年ライブレポートはこちら

「原始神母」を観るためだ。原始神母はPink Floydのトリビュートバンドで、以前はPink Floyd tripsと名乗っていた(正確には今も両名義を併用)。レベッカ、レッドウォーリアーズで活躍してきた木暮”shake”武彦がPink Floydマニアのミュージシャンを集めて始めたバンドで、2012年から活動している。

わたしが初めて体験したのは2014年の東京キネマ倶楽部。もう圧倒的に良かった。その場で毎年通うことが決定した。
原始神母 pink floyd trips

さて渋谷のライブハウス。スタンディングだと思いこんで水分控えていったが、椅子が並んでいるではないか。確かにピンクフロイドファンの年齢層を考えたら立ちっぱなしはキツイ。(このときはまだ知らなかったが休憩含み3時間半のライブとなる)。原始神母はおじさんにもやさしい。偉いぞ。

整理番号3番だったので、最前列につく。

毎回進化するのもウリの原始神母、今回初めての趣向は、第1部に参加メンバーのソロパートを持ってきたこと。ピンクフロイドの祭りではあるが、普段やってる音楽も知ってもらいたいというミュージシャンとして当然の欲求だろう。
なにせ技術的に凄い人がそろっているからソロパートも聴きごたえ充分。オリジナルに加え、原始神母ではやりそうもないフロイドナンバーや、デヴィッド・ボウイ追悼の「クイック・サンド」まで跳びだし洋楽ファン早くも感涙。

ここまででおよそ1時間20分。着席制に深く感謝しつつトイレに立つ。
一人でのライブ参戦に慣れていない人にワンポイントアドバイス。両隣の人と軽くでも会話しておくと、荷物を置いて席を立っても安心だよ!(もちろん貴重品はダメ)

ピンクフロイドは1960年代末にデビュー、70年代に気が狂うほど売れたプログレッシブ・ロックバンドで、世界的には今なお巨大なファン層を抱えているのだが、日本ではなぜか今ひとつ人気がない。
理由はわたしには正直全くわからないのだ。が、あえて考えればラブソングがないからだろうか。まともに男女の愛を歌った曲が1つもない。これはもうそう決めていたとしか思えないほど見事にはっきりしている。そこが日本人の好みに合わないのかもしれない。

客が席に戻り、メンバーがステージに現れる。
さあお楽しみの時間だよ!

原始神母

(演奏・鑑賞の妨げにならなければ撮影は許可されている)

1曲目は Astronomy Domine
最初期のリーダー、シド・バレット在籍時の代表曲。いきなり銀河を駆けめぐるような浮遊感が会場を満たす。原始神母のメインボーカルはケネス・アンドリュー。英語発音に不安がないのは日本のバンドが洋楽をカバーするときけっこう重要だ。

続いて One of These Days
日本ではプロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーのテーマソングとしても知られてしまった(笑)名曲。血が湧きたつようなベース、原始神母のベーシストは扇田裕太郎だ。曲によってはギターも弾けば、シンバル、銅鑼もぶったたく、アクションもカッコイイ多才な人。おまけにしゃべりもバッチリ。

既に良すぎてアドレナリン大放出。だからここからは曲順違うかもしれないが、ご容赦あれ。

Time
世界で5000万枚以上売れたと言われる傑作「狂気」からの人気曲。デヴィッド・ギルモアの最高のギターソロを木暮武彦が再現。またこれが気持ち良さそうに、歓びに満ちあふれて弾くんだな。レッド・ウォーリアーズのころはこんなギター弾く人だとは想像もしなかった。

The Great Gig In The Sky
前曲とメドレーにするのがお約束、ド迫力の女性コーラスに打ちのめされる快感。超強力なコーラスコンビ、成冨ミヲリ&ラブリー・レイナは間違いなく原始神母のエンジンの一つだ。声量、グル―ヴ感ともに抜群。
原始神母 女声コーラス

Set the controls for the heart of the sun
Saucerful of secrets
2枚目「神秘」からの2曲。原始神母はピンクフロイドの長いキャリアのうち、巨大バンドとなった中期後期よりも、実験性が強かった前期をメインレパートリーとしている。よりコアなファンに向けて、というより、バンドメンバー自体が最も好きで刺激を受けるのがそのころの、まさに新時代のロックを爆音とともに切り拓いていったフロイドナンバーなのだろう。だって今聴いても革新性のカタマリなんだからね。
扇田さん、銅鑼たたきます、全身使って。シンバルも乱れ打ちします。伝説の「ライブ・アット・ポンペイ」を観た人はロジャー・ウォーターズの雄姿を思い出しましょう。

Cymbaline
Mudmen
原始神母は前期の中でもかなりレアな曲を混ぜてくる。これも何度も来てくれるファンへのサービスとともに、やはりメンバー自身が愉しいからに違いない。一昨年だったか扇田さんが言っていた。「1回きりのつもりだったのが、みんなが盛り上がってくれて毎年になった。しかし同じことはやりたくない。常に前年を超えるものにしたい」そりゃそうだ。ピンクフロイド本家がまさに進化するバンドだったのだから。

Wish You Were Here
今回のセットリストでは2番目に新しい曲。1975年(笑)
最初期のリーダー、2枚目の途中で精神を病みバンドを去ったシド・バレットに捧げた曲。
2005年の大規模チャリティーコンサート「ライブ8」で25年ぶりにフルメンバーがそろい4曲を演奏した中の1曲でもある。演奏後ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアが肩を組んだ映像が今も目に焼き付いているファンは多いだろう。昨日のことのようだ。いや10年前だよ!
原始神母 タイム

Echoes
アルバム「meddle」から。わたしが最も愛するフロイドナンバー。同様のひとは多数派でないまでもそれなりにいるはず。スタジオバージョンでも23分の大曲であり、ライブではさらに長くなることが多い。これをやる限り、原始神母のライブは常に必見である。
再現度はすさまじい。完全コピーではなく独自アレンジが入るのだが、それで本物感がいささかも損なわれないことには空恐ろしさすら感じる。つまり本家ピンクフロイドが70年代のライブでこんなアレンジもやっていて、それを今初めて知り観ているかのような感覚。表層でなく本質をつかんでいるからこそできる技で、原始神母の神髄と言ってもいいだろう。

Comfortably numb
延々と続くエコーズの中間部がふっと途切れ、何が来る?と思ったらこれだった。
今回のセットリストで最も新しい曲(1979年)にして、本家ライブでもアンコールに多用され最も盛り上がる曲。ロジャーとデイヴのかけあいヴォーカルを、扇田裕太郎&ケネス・アンドリューで。そしてさびのギターソロはもちろん木暮武彦。カッコよすぎて泣ける。嬉しすぎて泣ける。

これにて本編終了。既に満腹。多幸感に包まれ、ぼおっとしながらシャケさん(木暮武彦)のあいさつを聞く。
そしてアンコールで原始神母バンド名の由来となったアイツが来た。

Atom Heart Mother
今日はやらないかと思った。だって、25分かかる曲アンコールに持ってくるか?
1970年の同名アルバムから、ロックとクラシックの融合を目指したような壮大な組曲。中盤では再び女声コーラスが炸裂。人の声と楽器音がからみあい、渾然たる音世界が恍惚を誘う。
原始神母 pink floyd trips

誰もが知っている。
どんな夢もいつか覚める時間がやってくる。
原始神母の夢の終わりはいつもこれ。

The Nile Song
サントラとして作られたピンクフロイドとしてはマイナーなアルバム「モア」から。
ピンクフロイドらしい曲とは言えないが、これを大ラスに持ってくるのはよくわかる。明るく盛り上がれるほとんど唯一の曲だから(ちなみにComfortably numbは暗く盛り上がれる曲-笑)。

☆    ☆    ☆    ☆

気がつけば10時半を大きく回っている。
1部2部合わせて3時間半に及ぶライブだった。

扇田さんから今年10月22日のライブがアナウンスされる。
川崎クラブチッタで「狂気」全曲再現すると!

行きますぞ。
ダムが決壊して丘の上に逃げ場がなくても、
真黒い雲をひきさいて雷鳴がとどろいても、
行きますとも、行きますとも。
あはははは、わははははは、わははははは……

ピンクフロイド 「狂気 Dark side of the Moon 」

【amazonで見る 『狂気』】

1988年、日本武道館でデヴィッド・ギルモア率いるピンクフロイドを観た(ロジャー・ウォーターズは脱退後)。
2002年、ロジャーウォーターズのソロは東京国際フォ-ラムで三日とも観た。
その上で言う。
ピンクフロイドファンなら原始神母は観るべきだ。絶対に後悔しない。するわけがない。
ピンクフロイドをあまり聴いてこなかった人も、ロックが好きならおすすめだ。きっと先入観を打ち砕かれるに違いない。黄金期の代表曲だけではわからないピンクフロイドの革新性と懐の深さがそこにある。

音楽は、どんな言葉で飾るより、聴けばよい。
原始神母の公式サイトに http://pinkfloydtrips.com/
たくさんの動画がアップされていたのだが今現在はなぜか消えているのでyoutubeから。https://www.youtube.com/watch?v=fNGUiYhb5pA&feature=youtu.be
他の曲も探せばいろいろあるはず、ぜひ聴いて震えてほしい。泣いてほしい。

本家は作品が多すぎて何を紹介していいかわからないのだが、コアなファンにも初めての人にもお勧めなのが、昨年9月29日に世界同時で一日だけ限定公開された映画「ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール」
わたしは東京の映画館で観たが、原始神母のメンバーも何人かお見かけして密かに嬉しかった(ウソ。全然ひそかでなく握手してもらった)。

映画『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』

【amazonで見る】

それにしてもこの世にピンクフロイドの音楽があるということはなんと素晴らしいことであろうか!

<2016.10.10 追記> メンバーの成冨ミヲリさんにインタビューしました!
~まもなく始まる「原始神母」狂気全曲再現ツアー2016~

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