2002号室は寝室の他に二間あるゆったりした作りである。
テレビはない。
ホテル暴風雨の部屋の多くはそうである。
ホテル内にはテレビより面白いものがたくさんある。
で、サザエさんだ。
わたしの脳内はさきほどからある疑問でいっぱいなのだ。
ある疑問とはこれである。
「買い物しようと町まで出かけて財布を忘れる」のは愉快なことなのか?
人の失敗を笑うのは立派なことではないだろう。少なくとも現代の感覚においては。
しかしサザエさんの歌はそれを真っ向否定している。
みんなが笑って、子犬まで笑うのだ!
これは時代の違いなのだろうか?
この歌詞が書かれたのは40年以上前だろう。
当時は「人の失敗、面白いに決まってるじゃん!」でオーケーだったのか?
まあ財布を忘れなかったら、予定通り買い物して帰るだけだから、面白くもなんともないのは事実だ。
一方、忘れれば一応ネタになる。
「かごにいっぱい詰め込んでレジ並んでたら財布なかったのよー!」
そんなことがあればまあ人に話すよな。
そしてそこで期待しているのは「たいへんだったねえ」と同情されることではなく、「バッカだねえ」と笑われることだろう。
やっぱり愉快なのか。国民的番組に間違いはないのか。
2002号室にはテレビがないから、今でもサザエさんでこの歌が使用されているのか、わたしは知らない。いや今でもサザエさんが放映されているかさえわたしは知らない。最後に見たのは平成に入ったころではなかったか。
28年前はなにげなく聞いていた。なぜ今ごろ突然こんな疑問にとらわれたのか、まるでわからないが、そういうことはあるものだ。
そしてもう一つの疑問も浮かんできた。
そう、あなたの推測はきっと正しい。
これだ。
「お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかける」のは陽気なのか?
猫に魚を取られたら慌てるのはわかるし、慌てたあまり裸足で追いかけるさまは確かに可笑しい。 しかしそれは「陽気」なの? 陽気ってそんな意味だったかねえ?
まあなんというか、歌だけとっても一筋縄で行かない、さすが「サザエさん」である。
いつかもう一度見る日が来るであろうか。
「それではまた来週。ん・が・ん・ぐ」
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