アマゾンのことを調べていると、アマゾンはもはや書店でないのはもちろん、ネットのエブリシングストアといっても正確ではなく、巨大IT企業と見るべきことが明らかになってくるが、わたしは出版にこだわりがあるのでもう一度出版のことを書く。
『出版の崩壊とアマゾン(出版再販制度四十年の攻防)』(高須次郎著 論創社2018)を読んだ。
タイトルはアマゾン名指しだが、アマゾンの脅威だけ書いた本ではない。40年以上出版に携わってきた著者が出版再販制度を軸に出版界を分析し、現状を「出版敗戦前夜」と言わざるを得なくなるまでを書いた本である。
出版敗戦前夜とは穏やかでないが、本書に現れる数字はたしかに大変厳しいものがある。
・日本の書籍雑誌の売上ピークは1996年で2兆6564億円だったが、2017年には1兆3701億円と半分になった。内訳では書籍が35%減、雑誌は60%減だという。
・書店数は1999年の22296店から、2017年は12026店と10000店以上減った。超大型書店が増えたおかげで総売場面積はむしろ増加した時期があったが、それも2013年からは減少に転じたという。
・出版社数のピークは1997年で4612社。2017年には約4分の3の3382社になった。1230社減。
数字はいろいろ読みようのあるものではあるが、これほどあからさまな転落にはもう唖然とするしかない。
同時にわたしたちには思い当たる節も多くあるだろう。昔からあった町の書店がなくなった。あっちでもこっちでも。電車内はスマホを見る人ばかりで本や雑誌を広げる人はいない。
出版敗戦前夜と言われても「まさか」ではなく「そうかも」と感じてしまう人が多いのではないか。
しかし出版敗戦も出版崩壊も意味するところが明確な言葉ではない。さらに言えばここにおける「出版」だって何を指して使用されているのか明確ではない。
本質的には出版とは「出版物」であるだろう。そしてそれを作るために著者と出版社があり、読者に届けるために流通システム(書店・取次)がある。
したがって極論すれば出版物が充分残れば出版敗戦ではない。
前述のように『出版の崩壊とアマゾン』はアマゾンの脅威だけを論じている本ではないが、ここではアマゾンの話をする。アマゾンが何を殺し何を殺さないかを考える。
アマゾンが日本でサービスを始めた2000年ごろはすべてのネット書店を合わせても日本の全書籍売上の1%にも満たなかった。それが2011年にはアマゾンだけで全書籍売上の20%以上、紀伊国屋やジュンク堂、丸善を大きく引き離す最大の書店になったという。それから8年、今はさらに膨れ上がっているだろう。
急成長の理由はたぶんいろいろある。インターネット普及の追い風に乗ったのは大きいが、近い時期にスタートしたネット書店がいくつもあったことを思えばそれだけがアマゾンの勝因ではない。最初は名実ともにちいさな存在だったから、ブランド力や資本力で勝ったともいえない。
勝因は意外と地味なところにあり、技術とアイデアによる細かい工夫の積み重ねが徐々に効いたのではないか。
リアル書店相手にはロングテール狙いの圧倒的品揃えと迅速な配送が最大の武器だった。一方、ネット書店同士の争いでは売上ランキング、読者による評価やレビュー、おすすめ機能などがアマゾンの武器だった。これら購入の参考になる情報は明らかに他のネット書店より充実していた。そしてアマゾン利用者が増えるほどその充実ぶりは増した。アマゾンを長く使ってきた人なら、おすすめ機能がどんどん賢くなるのをリアルタイムで目撃したはずだ。
いつのまにかエブリシングストアになったのも強みとなった。本も家電も日用品もアマゾンだけで済むなら便利に決まっている。
モノだけではない。アマゾンプライム会員になるとお急ぎ便無料に加え、多数の映画や音楽コンテンツが無料で楽しめる。ますます「アマゾンが一番お得」に見えるようになってきている。
<「アマゾンが出版を殺すのか?出版とは本か書店か取次か出版社か」つづき>
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