サクラエビ〜漁師の生活と持続可能な漁業

サクラエビをご存じだろうか。サクラエビは節足動物門、軟甲綱、十脚目、サクラエビ科、サクラエビ属に分類される4cmほどの小型甲殻類である。主な生息域は千葉県沖、東京湾、相模湾、駿河湾そして台湾と日本近海にのみ生息する貴重な水産資源である。サクラエビの寿命は約1年半と短く、昼間は水深150mから300mの深海に生息しているが、夜になると水面近くまで浮上するため、これらを漁獲するには細心の注意が必要となってくる。

サクラエビの漁期は春と秋の2回ある。サクラエビの産卵期は5月末から11月中旬で、最盛期は7月から8月である。このため、産卵期を除いた3月下旬から6月上旬までの春漁と10月下旬から12月下旬の秋漁が行われている。駿河湾のサクラエビは静岡市清水区にある由比漁港と焼津市にある大井川漁港の2カ所でしか水揚げされない。ところが、近年サクラエビの資源量が減少し、漁獲量が低水準で推移している。

駿河湾のサクラエビが減ってしまった原因については諸説あるが、主な原因は環境の変化と漁獲圧の高さと言われている。2018年の春漁では記録的な不漁で、これは前の年に水温の高い黒潮が大蛇行して、駿河湾に入ってこなかったため、水温も上がらず産卵する親エビが減少したのではないかと考えられている。環境の変化には人間の力は及ばない。

一方で、漁獲圧の高さについては人間サイドで調整することが可能である。ただし、サクラエビ漁で生計を立てている漁師はそう簡単に漁を切り上げる訳にもいかない。1年間無収入で生活しろと強制することはできないからである。

サクラエビは夜間水面近くに上がってくることから、サクラエビ漁は夜中に行われる。漁師は日が傾き始める夕方に寝床に着き、その日のうちに起床する。日付が変わる前に海に出て、その日の漁を行う。サクラエビがあまり捕れなかったら場所を変えて何度も網を引っ張り、せめて船の油代だけでも稼がないとと、少ないサクラエビを少しでも多く捕ろうと努力するのである。

ところが、この努力がより一層水産資源を減少させている原因になり得るのである。本来ならサクラエビが捕れないということは資源量が少ないということで、次の世代のために残しておかなくてはならない。ただ、生活のためには一定数量以上は捕らないと漁業が成り立たない。そうなると、漁獲圧が高くなり更に資源量を減少させる負のスパイラルに陥ってしまうのである。

水産物は一般的に生物資源と呼ばれ、大きな特徴として再生産することが挙げられる。鉱物資源や石油資源は一度採集したら減る一方だが、生物資源は子孫を残し再び資源として利用できる状態に再生産してくれるのである。この再生産を管理することで持続可能な漁業が成り立つ資源管理が重要になってくる。

資源管理の基礎は増加と減少のバランスである。水産資源の増加は個体の成長と子供が大きくなって漁獲サイズになる加入の2つ。一方減少は寿命や外敵に食べられる自然死亡と人為的な漁獲である。この成長、加入、自然死亡、漁獲が安定した状態では以下のような式が成り立つ。

成長+加入=自然死亡+漁獲

それぞれの項目について調査を行い、資源量を推定したら大まかな漁獲量を見積もることができる。漁獲できる量を推定するには以下の式に変形する。

漁獲=成長+加入-自然死亡

ここで資源管理を難しくしている項目が自然死亡である。黒潮の大蛇行で産卵できずに死亡したり、クジラなどの大型生物が増加してサクラエビを食べてしまったりと予測不可能な事態に遭遇すると資源管理がとたんに難しくなってしまう。そのためにも漁獲量はある程度に抑えて少ない年限で自然回復できる水準を維持しなければならない。

このような資源管理が適正に行われているか個人の立場で知ることは非常に困難である。そんな時はこれらを評価する機関がいくつか存在するので、消費者はその認証を得た商品を購入することで資源管理に貢献することができる。その一例として海のエコラベル認証制度(MSC)があり、青い魚のシールが貼られた商品をスーパーで目にすることができる。水産物を買う時の目安にしてみてはどうだろうか。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第94回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第94回「サクラエビ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第94回「サクラエビ〜漁師の生活と持続可能な漁業」いかがでしたでしょうか。今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

サクラエビは、限られた海域にしか生息しない貴重な生物。
恥ずかしながら私は、かなり大人になるまで、サクラエビ=小さいエビのこと? くらいに思っていました。確か、「サクラエビは駿河湾でしか獲れない」と教わって認識を改めた気がするのですが、相模湾や東京湾にもいるとは。東京湾!? ほんとかな? 採りに行こうかな……と、こういう安直な思いつきだけでなく、漁師さんの生活をも天秤にかけないといけないほど「持続可能性」が危ぶまれる昨今です。ぐっちーさんのエッセイで勉強した後は、青いお魚マークが目印のMSC認証水産物を買ってみようかな?

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