ペーパーバックのロイヤリティ(印税)の仕組み
KDPペーパーバックについて3回目です。前の2回は下からどうぞ。
amazonのKDPでペーパーバック(紙書籍)を作る
KDPペーパーバックの作り方。本文デザインと表紙作成。
【ペーパーバックのページ数】
KDPペーパーバックで作れる本のページ数には制限がある。 24 ページ以上、828ページ以下だ(版型によっては上限が少し減る)。まあほぼどんなページ数も可能と言っていいだろう。
『プロの絵本作り 本気で絵本作家を目指す人に』は電子書籍では1巻と2巻に分かれていたが、ペーパーバックでは合本することにした。いくつか理由がある。
まず合本しないと1冊が50ページくらいになりそうだった。紙の本で50ページは短い。本というより冊子という感じになる。手に持ったときの感触として100ページくらいはほしいと思った。
印刷代の問題もある。このあと詳述するが、本文白黒の本の場合50ページでも100ページでも印刷代は400円で変わらないのだ。それなら100ページの方がお得感がある。
それにもともと電子版『プロの絵本作り』は内容的な理由で2巻に分けたものではない。電子書籍は分量にしばられず短い作品も1冊にできるのがメリットの一つで、分割し、値段も下げ、お試しで買いやすくしようという意図だった。だから合本は元の姿に戻したと言ってもいい。自然なことだった。
【ロイヤリティの計算式】
KDPペーパーバックは制作に費用はかからない。在庫を抱えることもない(著者もアマゾンも)。POD(プリント・オン・デマンド)といって注文が入るごとに1冊ずつ印刷製本するサービスだからだ。
著者(厳密にはKDPペーパーバックを出版する人。著者でない場合もありえる)のロイヤリティ(印税)は60%だ。KDP電子書籍のロイヤリティが70%だから少しの違いのように見えるが、そうではない。ペーパーバックではロイヤリティから印刷代が差し引かれる。これが大きい。
下がアマゾンでペーパーバックが売れたときの計算式だ。
<本の価格-アマゾンの取り分(40%)-印刷コスト=著者利益>
例として『プロの絵本作り』はこうなる。
<価格1000円-アマゾンの取り分400円-印刷代395円=著者利益205円>
ここの価格は税別で、実際にはアマゾンで消費税10%がつき1100円で販売される。
印刷代の分どうしても電子書籍より割高になる
【印刷コストのこと】
電子書籍では生じない印刷コストが紙書籍では生じる。この差は大きい。
KDPペーパーバックの印刷コストはページ数で決まる。あとは本文がカラーか白黒かだ。驚くべきことに版型は印刷代に影響しない。文庫サイズでもA4でも同じなのだ。大判にして細かい字で詰め込めばページ数が減りそのぶん安くできることになる。
ただしKDPペーパーバックの規定ではページ数が増えても印刷代が変わらなかったり、増えたらかえって安くなったりすることもある。ページ数によって算定方法が切り替わるからだ。
黒インク(本文白黒印刷)の場合はこれ。
24ページから108ページまでは定額400円。
110ページ以上は(固定コスト175円+1ページあたり2円)になる。
すると110ページは395円で、108ページより5円安い。24ページも108ページと同じ400円だから、110ページの本の印刷代が24ページの本より安くなってしまう。『プロの絵本作り』は108ページでも作れたのだけれど巻末に著作一覧を2ページ入れて110ページにした。
カラーインク(本文カラー印刷)の場合はもっと極端なことが起こる。
24ページから40ページまでが定額475円。
42ページ以上は(固定コスト175円+1ページあたり4円)になる。
すると44ページは印刷代351円で、40ページより124円も安くなってしまう(なぜか<ロイヤリティ計算ツール>では42ページは計算できなかった。バグだろうか?)。
ふつう印刷コストはページ数が増えればそれだけ上がるのが当然で逆転現象が起きているのは不思議だ。
コスト面だけ考えれば、白黒では100~110ページあたり、カラーなら44から75ページあたりがお得なページ数設定となる。ただし前回書いたように75ページでは背表紙にタイトル文字を入れられない。それを許容するなら薄めの本もありだと思う。
【ペーパーバック版とキンドル版を両方出版する意味】
KDPセルフ出版の経済面を考えるとそれはもう紙書籍より電子書籍の方が効率がいい。ずっといい。
電子書籍の『プロの絵本作り』は1巻と2巻を合わせて660円だが、その2巻を合本した内容であるペーパーバック版『プロの絵本作り』は1100円と約1.5倍の値段だ(どちらも消費税込み)。しかし電子版2冊が売れたときの利益が420円(印税70%)であるのに対し、ペーパーバック1冊の利益は上記のように205円である。価格は1.5倍なのに利益は半分。印刷代がかかるのはそれほど大きいのだ。
KDPでは価格は著者(出版者)が自由につけられるから利益を確保するためにもっと値上げすることはできる。しかし高すぎて売れなければ意味がない。
そう考えると同じ本を電子と紙で出す場合、売れやすいのはやはり電子版で、割高でもぜひ紙でほしいという読者のために紙の本も出すのが、現状でのKDPのよい利用法ではないかと思う。実際、『プロの絵本作り』の電子版を持っているが紙書籍も買った、紙でほしいから待っていた、という声を多数いただいた。中身が同じでも紙と電子は別の魅力を持つ商品なのである。
次回はその他の気づいたことを書く予定。細かいことがいろいろある。
<Amazonで紙書籍を出版・販売するとき知っておきたいこと>
(by 風木一人)
※『プロの絵本作り~本気で絵本作家を目指す人に~』が紙書籍になりました。連載に加筆修正の上、印税、原稿料、著作権、出版契約に関する章を追加。amazonで独占販売中です。