ありがたいことに、この「電車 居眠り 夢うつつ」も前回で40回を迎えた。これも読者の皆様とオーナーのおかげである。
ところがこのめでたい時に、この連載は史上最大の危機を迎えることになったのである。
新型コロナウイルス感染症。この世界的感染症の影響は、ネットの海に浮かぶホテル暴風雨の客室にも及んでいたのだ。
そんなバカな。感染経路がないではないか。
いやいや、それがあるのだ。ホテル自体はこの世の人間界、生物界から隔絶された電脳世界に浮いていても、筆者はそうではない。電気を食って生きていくわけにもいかず、人間社会で労働して口を糊していかなければならないのだ。そこへ最近の感染者の増加である。
筆者の勤務先でも、公共交通機関による通勤が当面の間原則禁止となってしまったのだ。所長に頼み込んでしばらくは猶予期間をもらったが、この先どれくらい続くかわからない。とうとう私も3年ぶりに車を購入し、自家用車通勤に切り替えた。いつまでかはわからないが、当分電車通勤はお預けである。
通勤電車の中で、居眠りに落ちそうで落ちない夢うつつの状態で生じる意識と無意識の交感からふと浮かび上がってきたことをもとに文章を書く、と言うのがこの連載の趣旨である。
自動車通勤ではそれができないではないか。運転しながら居眠りなどしたら、「自動車 居眠り 大惨事」という、交通標語のようなことになってしまう。
そんな大袈裟なことを言わなくても、エッセイのネタくらい、運転しながらでも考えられるだろう、と思われるかもしれない。ところが、それが私には大ごとなのである。
私が車を持たずに暮らしていた3年のあいだに、乗用車は飛躍的に進歩した。そして、我々の期待に反して、機械というものは進歩するほどややこしくなるものなのである。多量の意味不明のスイッチ類が現れ、車が勝手に運転手の予想を超える動作をするようになった。
ラジオをAMにするにはどうすればいいんだ? トリップメーターをリセットできないけど、どうすればいいんだ? ライトが勝手についたけど、どうしたら消せるんだ? アイドリングストップする時としない時があるのはなぜなんだ? 何かピーピー言ったけど、何なんだ?
そんな疑問の数々を抱えつつ、安全にも注意して運転をしていては、心穏やかに「夢うつつ」の境地に至るなど、それこそ夢のまた夢である。当面、私が新しい車の操作に習熟するまでは、新ネタは諦めて、今まで書きためたネタ帳に頼るしかなさそうである。
(by みやち)
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