電車 居眠り 夢うつつ 第56回「進撃の巨人」と「壁」ワンダーランド

今日は前回の続き。「進撃の巨人」の壁の話です。

遅ればせ(周回遅れ?)ながら「進撃の巨人」を初めて見て、やはり目を引かれたのは、「壁に囲まれた平和な国」という設定だった。外の世界は凶悪な巨人に支配されているが、高い壁の内側は平和で繁栄した人間の国。なかなか神話的な設定だ。だが、この設定、どこかで見たことがあるぞ。

そうだ。「鋼鉄都市」だ。「電車 居眠り 夢うつつ」でも紹介した、アイザック・アシモフの長編SFミステリーだ。(続編の「裸の太陽」も含めて、ここでは「鋼鉄都市」とまとめさせていただく。)
「鋼鉄都市」の世界では、地球人は、都市を鋼鉄のドームで覆い、その中から出ようとしない。都市間の移動には、地下の高速道路を使う。多くの人は、一生ドームを出ることがなく、本物の太陽を見ることもない。
はじめは核戦争の後で放射能から都市を守るためにドームが作られた(ここのところはうろ覚えなのだけれど)。やがて地球人は、ドームの外の剥き出しの大地や宇宙を病的に恐れるようになってしまったのだ。そればかりではない。ヒューマノイドロボットなどの高度の科学技術を嫌悪するようになってしまった。なお、人類でも、大昔に地球から出た人々は、恒星間宇宙船やロボットを操り、「宇宙人」として生きている。
そんな中、「地球人」である主人公は、仕事で「宇宙人」やロボットと付き合うようになり、やがて自分たち「地球人」も外の世界に出る必要があると確信するようになる。

もう一つ思い出した。村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」も、壁に囲まれた、静かな世界の話だ。ストーリーはややこしすぎるのでここでは紹介しないが、この小説でも、壁の中で暮らす主人公が壁の外に出るか出ないかが、物語の重要なテーマとなっている。

「進撃の巨人」、「鋼鉄都市」、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。ストーリーは全く異なる3つの物語だが、壁に囲まれた平和な世界から主人公が外の恐ろしい世界(あるいは謎の世界)に出るか出ないかの葛藤が描かれている。

なるほど。壁の中と外というのは、何か普遍的なモチーフなのだろう。そう思って、他に類似の物語がないか考えて見たが、一つも思いつかなかった。ためしに家人にも訊いて見たが、「探検家が、壁に囲まれた街を見つける話ならあるけど、、、」ということだった。それはちょっと別物だろう。

風木オーナーに尋ねると、「かべのむこうになにがある?」を教えてくれた。(まだ買ってません。風木さん、ごめん。)

「進撃の巨人」、「鋼鉄都市」、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」、「かべのむこうになにがある?」。どれも現代の作品ばかりだ。壁に囲まれた世界というのは、とてもしっくりくる、普遍的な感じのするモチーフなのに、昔の人は、興味を持たなかったのだろうか?

あるいは、昔は、人間が何らかの「壁」の中に閉じ込められているというのは、あまりにも当たり前のことで、普通の人々の暮らしを描いていれば、「壁」のモチーフは、そこら中にあったのかもしれない。
現代人は、一見「壁」などない自由な世界に生きているように見えながら、実は「壁」に取り囲まれている。だからこそ、象徴的な「壁」の登場する作品が作られ、我々現代人はそれらに強く惹きつけられるようになったのかもしれない。

(by みやち)

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