【 ルーブル徘徊 】
ルーブル美術館については、当時持ち歩いていた小型のクロッキーブックにあれこれ書いたメモや記録やクロッキーを元に、5回ぐらいは語れるように思う。しかし今回の魔談ではそれは(主題ではないので)やめておこう。「これだけは触れておきたい」ということだけを語っておきたい。
マレ地区にあったホテルは実際、いい場所だったと今でも思う。格安ツアーのサービスはひどいものだったが、ホテルは正解だった。
ホテルを出てセーヌ川の橋を渡ればシテ島。パリ発祥の中洲である。ノートルダム大聖堂がそびえている。ルーブル美術館へも歩いて行ける。のんびり歩いて40分ほど。10時に着いた。
この巨大な美術館の全容を把握し説明することは、極めて難しい。あまりにも超有名な名作がどかどかと並び、「ああこれはかの有名な」とか「おおこれは中学校の美術の教科書にも出ていた」などと思いながら丹念に1点ずつ眺めていくと、たちまち2時間はあっという間に過ぎて正午となった。ところがその時点で(会場案内図を見て)全体の10分の1も回っていないことに気がついて唖然とした。
会場案内図を見て食堂を発見した。この巨大な美術館の中には食堂もあるのだ。感動パワーがかなり減少してしまったように感じたので、行ってみた。で、とんでもないものを見つけてしまった。なんと食堂の真ん中にドンと置かれたでかい樽ワイン(赤)は無料なのだ。
・スライスサーモン・18フラン(¥360)
・ピスタチオ・11フラン(¥200)
これを肴にワインをコップ2杯もいただくと、まだ正午すぎだというのに、たちまちホロ酔いのじつにいい気分になってしまった。
「無料ワインをふるまう美術館。日本じゃありえない。いい国だ」などと思いながらその食堂で1時間半ほど過ごし、というか飲み(笑)、午後はほろ酔いの「ルーブル徘徊」となった。
「ホテルのチェックインで飲み、ルーブルで飲み、こりゃ気をつけないと帰国時はアル中だな」と上機嫌で思った。
【 貸しイーゼル 】
ルーブルにいると、至るところでゴロゴロと車輪の音がする。はるか上空の天井から豪華なシャンデリアがぶら下がっているような建築物なので、その音は至るところの石壁や天井に反響して響いてくる。場所によっては複数の「ゴロゴロ」が重なっている。
いったいなんの音だろうと思っていたら、なんと大きな(車輪付きの)イーゼルを画家がガラガラと押している音だった。ルーブル美術館では原画を目の前に置いて(油彩で)模写することが許されているのだ。イーゼルも椅子も貸してくれるのだ。この点も「さすがはフランス。日本じゃありえない」と脱帽せざるをえない。じつにおおらかというか、画家に好意的というか。
模写画家たちの年齢、性別、人種、これがまたじつに多彩だ。老人も老女もいる。「美術学校に通う生徒たちだな」と思われるような女性たちもいる。白人、黒人、中国人もいたが、残念ながら日本人はいなかった。
面白いことに「模写」ではなく、ルーブル館内を描いている画家もいた。イーゼルも椅子も貸してくれるような美術館だから「これもあり」なんだろう。
【 魔の地下ルーブル 】
ところでルーブル美術館は、地上は豪華絢爛の美術館だが、地下に行くとその雰囲気は一変する。……というのも、この壮麗な建築物は美術館のために建てられたのではない。ここはかつては「ルーブル宮」と呼ばれていた。名称はいかにも優雅だが、実際は「優雅」のイメージからはほど遠い。1200年頃、ここは外敵侵入を防護するための要塞だったのだ。
その名残が地下にまざまざと残されている。地下に降りると広大な回廊があり、地下牢があり、要塞であった頃の拷問道具などが陳列されている。
2時間や3時間程度のツアーでは、地下にまで降りることはまずないだろう。御婦人が見て気分が悪くなるようなものをツアーが見せるはずがない。

というわけで「ようし今日1日はルーブルにどっぷりと浸るぞ!」と計画された方も、古今東西の超名作絵画や彫刻を見て感動した後で、最後に地下に降りて牢獄や拷問道具を見るという順番は、やはりやめておいた方がいいだろう。大感動の名作映画を観た直後に(同じ映画館で)ホラー映画を観る人はいない。「地下もくまなく見ておきたい」という人は、日を改め、美術館ではなく「中世要塞・地下見学」てな気分(覚悟)で行った方がいいだろう。
【 つづく 】

