【 古代のスーパー兵器 】
「塔」という建物が宿命的に戦いの道具として、あるいは拠点として利用されてきた例は、世界中にあるに違いない。その最も原始的な出発点は「物見櫓/ものみやぐら」ではないかと思われる。なにしろ高いところで見張っているのだから、外敵の接近を察知する上でこれほど有効な場所はない。
ジブリアニメはお好きだろうか。「もののけ姫」冒頭に「これぞ物見櫓!」が出てくる。するすると登っていくアシタカの、ざっと10倍ほどの高さだ。アシタカの身長が170cmとすれば、じつに17m。5階建ビルの屋上ぐらいの高さだ。
その物見櫓から進化した塔が、戦いの場において敵を震撼せしめた「戦塔」伝説がある。
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私事で恐縮だが、話は50年前にさかのぼる。
私が少年時代を送った昭和40年代、「少年画報」というぶあつい漫画冊子が全盛期だった。表紙では黄金バットが高らかに笑っていたり、鉄人28号が両手をくの字に曲げてビルの谷間で吠えていたり……そういう時代の漫画本である。60歳以上の日本人男性は「ああなつかしい」と思い出せるに違いない。
その巻頭グラビアページ……とここまでなにげに書いて「グラビア。この言葉もほとんど死語だなぁ」と思わず苦笑だが……巻頭カラーページに「古代のスーパー兵器!」とか、なんかそんなふうな見出しが(手描きの特太ゴチック文字とかで)ドカッと配置してあり、初期の戦車やら巨大な投石器やらがリアルな挿絵で紹介されていた記憶がある。私はむさぼるようにその挿絵を眺め、その威力を想像し、ため息をついたものだ。
それからざっと50数年。64歳の私がいまだに頭の中でおぼろげながら再現できるスーパー兵器の挿絵がある。海岸の絶壁に建てられた塔。その頂上に設置された巨大な金色の皿。なんと皿は太陽光線を反射して焦点を合わせ、海岸近くまで攻めてきた敵の帆船を焼き払っているではないか。
なにしろ少年時代のことである。大挙して攻めて来た美々しい装飾の古代軍船、それはずっと後になってローマ軍だと知るのだが、それに対し弓や大砲や投石器などといった「物」を飛ばすことなく、太陽光線を集めて敵船を焼き払うというスマートさ。この「武力に打ち勝つ知」とでも言おうか、圧倒的優位を誇る太陽光線兵器は私の心を大いにゆさぶった。そこに記された「アルキメデス」という老人の名は、その後長らく私の記憶にとどまることになった。
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【 アルキメデス 】
アルキメデス(紀元前287〜紀元前212)。
古代ギリシアにおける第一級の科学者、物理学者、天文学者、数学者、そして兵器発明家である。フィールドが広い天才ということで、後世のレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)と比較されることもある。しかしダ・ヴィンチのように絵画を制作することはなかった。
イタリア半島を眺めると、「ハイヒールのロングブーツが蹴飛ばした瞬間の石」みたいな島がある。これがシチリア島である。アルキメデスはこの島のシラクサで生まれ、ずっとそこに住んでいた。ところが紀元前214年、ローマ軍がこの島に攻めてきた。第二次ポエニ戦争(紀元前214〜紀元前212)と呼ばれる戦いである。
この2年間にわたる戦いでアルキメデスは驚異的なふたつの兵器を発明し、ローマ軍を震撼させた。それぞれ次のように呼ばれたと伝えられている。
「アルキメデスの鉤爪」(かぎづめ)
「アルキメデスの熱光線」
ひとつめの「鉤爪」兵器は、その存在がほぼ確実視されている。クレーンのように長大な腕の先端部に、なんと巨大な鉤爪がぶら下がっている。それをローマ軍船の鼻先にひっかけて持ち上げ、転覆させたというのだ。ホテル暴風雨2017号室の「クレーン謙」さんが聞いたら大喜びしそうな「怪物クレーン兵器」だ。
ふたつめの「熱光線」。これはいまだに「実在した兵器だ」vs「後世につくられた話だ」と論議を呼んでいる。ピカピカに磨いた銅の巨大な鏡(形状は円形説と長方形説がある)をいくつか配置して太陽光線を集め、上陸直前のローマ軍船を焼き払ったというのだ。事実であれば誠に痛快というか、驚くべき兵器である。
MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生たちが、これを実験して実証しようとした。にわか曇天による失敗(笑)で学生たちが期待した結果は出せなかったようだが、「気象条件が揃えば十分に可能」という結論に至ったらしい。蒙古襲来時における日本の「神風」みたいな話ではある。「そう都合よく快晴になるだろうか」と言いたくもなるが、海岸の絶壁に建てた数カ所の塔がピカリと輝き、そこから発せられた熱光線がひとつの軍船に集中、次の瞬間にその帆から煙が上がりパッと炎上したら、これはもう「天地創造」のような映画だったら拍手もののシーンだろう。ローマ軍船団は震撼し、退却するに違いない。
しかし史実では、ローマ軍はついにシチリア島を占領する。
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前例のない兵器を考案し、シチリア島に攻めてきたローマ軍を散々に苦しめたアルキメデス。ローマ軍は彼の存在を大いに恐れ、また恨んでいたに違いない。しかし攻撃の指揮をとっていたマルケッルス将軍は「アルキメデスを殺すな」という命令を全軍に発していた。
ところがシラクサがついに陥落した時、あるローマ兵が家に入り、そこにいた老人に名を聞いた。しかし老人は図形の上にかがみこみ、なにかを集中して考えていたらしく、返事をしなかった。その態度に怒ったローマ兵が殺してしまったと伝えられている。無残な結果を聞いた将軍は大いに怒ったそうである。
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( 余談 )
巨大な鏡は「塔の上に設置」ではなく、海岸にずらりと数個、あるいは数十個を並べたという説もある。また上陸直前のローマ船を焼き払うには、このような大規模な兵器を作るよりも、何百本もの火矢を放った方がよほど効果があるという「極めて冷静な説」(笑)もある。
………………………………… * 魔の塔-2・完 *
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