稀にみる邦画の豊作(その1)「白鳥とコウモリ」「藁にもすがる獣たち」「ルックバック」

今年、邦画はベテラン、中堅、新鋭、それぞれの監督が、大変活躍していると思う。1950年代が日本映画の黄金期と言われるが、今、第二の黄金期ではないか。この秋も秀作が相次いだ。

「白鳥とコウモリ」監督:岸善幸 出演:松村北斗 今田美桜ほか

「白鳥とコウモリ」監督:岸善幸 出演:松村北斗 今田美桜ほか

まず、「白鳥とコウモリ」。愛知と東京を舞台にしているが、愛知に住む倉木(三浦友和)が、東京の弁護士白石を殺したと自白し逮捕される。しかし、本当に殺したのかと、東京に住む倉木の息子(松村北斗)と、白石の娘(今田美桜)が調べていく話だ。事件を追うのは警視庁の刑事五代(柄本佑)。

登場人物も多く複雑な話なので、私はこの手の話は混乱することが多いのだが、展開が頭にスーと入って来た。この映画、犯人を捜すミステリーと人間ドラマが見事に融合している。脚本は、実力者向井康介。さすがであった。

また、役者が皆とてもいいのだ。松村北斗もいつものように自然体の演技だし、朝ドラ(「あんぱん」)では単調な演技しか見せなかった今田美桜もまずまずの好演だ。
そして、三浦友和と柄本佑の存在感。柄本が、額を叩き、「ああ、おれは取り返しのつかないミスをしてしまったあ」と言う台詞が印象的。彼は、今年公開の時代劇の佳作「木挽町のあだ討ち」でも犯罪の真相を追う侍役を好演した。

映画には、「庇う」ことの美しさがあった。ネタバレだが、若い二人に変化が芽生える。そこがいい。ラスト、一人が控えめに言う、「ひとつ伝えたいことがあります。ずっと、待っています」。相手は、それを聞いて頭を下げる。人が愛し始めるとは何と美しい事か。
よく考え抜かれた面白い話に引き込まれ、素晴らしい演技を堪能する。これぞ、映画の醍醐味だ。

 

監督:城定秀夫 出演:鈴鹿央士 成宮寛貴 森七菜ほか

監督:城定秀夫 出演:鈴鹿央士 成宮寛貴 森七菜ほか

次に、「藁にもすがる獣たち」。5年前、同じ日本の原作(曽根圭介)で、韓国映画が作られている。この映画は、韓国一の女優チョン・ドヨンが出演し、見事な演技を見せた傑作だった。日本版は、前半がややもたつく。筋の流れは韓国の方が上か。しかし、終盤の盛り上がりと演出には目を瞠った。

舞台は群馬。カラオケ店に置いてあった一億円の現金の入ったカバンを巡って、色んな人物が絡まり合う。認知症のある祖母(風吹ジュン)と暮らす大学生(鈴鹿央士)、ゲスな刑事(成宮寛貴)、彼に金を貸しているヤクザの高利貸し(岩松了)のグループ、正体不明の若い女(森七菜)たちだ。

終盤、繁華街で、車が建物に突っ込むと、その場所が映画館。「仁義なき戦い」(1973)が上映中。劇場で主人公の刑事と、ターミネーターみたいなヤクザの大男が死闘を繰り広げる。背後の銀幕に映画が映る。菅原文太のバストショットに、血しぶきがかかる。「仁義なき戦い」の音楽が流れ続ける。これは、東映配給でしか作れない。なんと、閉館になる丸の内東映の映画館内で撮影された由。流石の活動屋精神だ。

驚くのは森七菜。ずいぶん、はじけた演技。男の性器も切ってしまう。「国宝」(2025)では目立たぬ役だったが。監督によって違うもんだ。

 

監督:是枝裕和 出演:出口夏希 蒔田彩珠 菅田将暉ほか

監督:是枝裕和 出演:出口夏希 蒔田彩珠 菅田将暉ほか

好きな映画をもう一本! <2024/8/30の回>で紹介したアニメ「ルックバック」が今度は実写製作となった。監督は是枝裕和。アニメに勝るとも劣らない。
漫画の原作者藤本タツキの故郷、秋田県にかほ市が舞台だが、美しい自然や風景を写してまことに豊かな映像世界がある。緑の田んぼ、青い空と海、紅葉、白い大雪。これがまず、いい。これほど、日本の風土を豊かに美しく捉えた映像が以前あったか?

引きこもり少女京本(岡田六花)の人物像がいい。卒業証書を届けに来て初めて会った同級生(七瀬ふうり)の事を「藤野先生」と呼び、ドテラにでっかくサインをしてもらうことが嬉しくて仕方ない。その京本の純粋さがとても好きだ。
ストーリーはアニメと同じ。作品が集英社に認められ、藤野が上京し、中央線だろう、電車が見える大きな部屋で、プロの漫画家となって漫画を描く。環境が変わってからの生活の哀歓や苦労が描かれるわけでなく、あっさりしたものだが。

あの、京本が大学で殺された後の展開をどうするのか。是枝は、さすがの展開にしている。ずっとアニメ版と一緒だが、途中から美しいアニメになって、二人が飛翔する姿となる。このシーンは魅力的であった。「好きなものは手放さない」という想い。少女たちの純粋さと必死さと切なさが美しいと思った。

他にも「平行と垂直」「さとこはいつも」「私の知らない子どもたち」が優れていた。

(by 新村豊三)

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