〈赤ワシ探偵シリーズ1〉フロメラ・フラニカ第十六話(最終回)「花とサボテン」
水星人は、朝の早い時刻を指定してきた。 軌道上コロニーから戻って、水星人が脱水症で入院していた病院に問い合わせると、「もう退院した」「個人情報は明かせない」の二つを繰り返すばかり。 彼はちょっ...
芳納珪の私設レーベル。ワクワクする空想冒険譚をお届けします。
荒廃した地球で探偵事務所を構える赤ワシ探偵のもとに、水星人の依頼人がやってきた……芳納珪作・ハードボイルドSF童話。
水星人は、朝の早い時刻を指定してきた。 軌道上コロニーから戻って、水星人が脱水症で入院していた病院に問い合わせると、「もう退院した」「個人情報は明かせない」の二つを繰り返すばかり。 彼はちょっ...
レオネは赤く染まったコートを着たまま、よろよろとドームの壁を伝って降り始めた。 「ああ、花恵さんが......頼むから、丁重に扱ってくれ……お、折れたりしないように......」 アマト・...
「きさま、花恵さんを花に変えてしまったのか! きさまの先祖が原地球人を作り変えたように!」 私は、湧き上がる怒りに我を忘れて、アマト・エースにつかみかかろうとした。 そのとき、 ...
私は息を飲んだ。 むせ返るような色彩と、甘い香りの洪水。 めまいがするほどの、生命の喜び。 扉の向こうに広がっていたのは、眩いばかりの花園だった。 「……これが『フロメラ・フラニカ...
長い通路を歩かされた。前後左右には、コップ型ロボットがぴったりとついている。 通路は狭く、天井は低く、配管が何本も通っている。 どれくらい歩いただろうか。 先頭のロボットが、通路の壁にあるド...
コロニーは、よくある円筒型やドーナツ型ではなく、小惑星の中をくり抜いて作られたタイプだった。そのため、一見してコロニーとはわかりにくい。 データ上では廃棄されたことになっているが、電気は通っ...
「花恵さんと『フロメラ・フラニカ』との関わりに心当たりは?」 快適な助手席のシートに収まった私は、操縦席のレオネに話しかけた。 シャトルはすでに宇宙空間に出ており、サイドの窓から青い地球が見え...
コーヒーを吹きそうになった私に、レオネは、水星人の妻の花恵とのいきさつを話した。 レオネは幼く見えるが、起業して自分の会社を持っている経営者だった。 花恵とは大学で出会い、親友になった。しかし...
「声をらヽすな」 背後から浴びせられた言葉は、とても滑舌が悪かった。 私は落ち着いて返事をした。 「騒ぎ立てたりしませんよ。でも、せっかくですが、このネクタイは私には似合わないようだ。ほどい...
紙魚たちが閉架書庫に入ってから、数時間が経っていた。その間、私は開架室で『長いお別れ』を読んでいた。もうほとんど暗記しているのだが。 私は本から目をあげ、あたりを見回した。 ……どうもさっ...