別訳【夢中問答集】第六十九問 縁生の心と法爾の心? 1/2話

足利直義:菩薩の化身である孔子や老子などの古代中国の聖人たちもまた、世間ずれしてひん曲がってしまった「知覚・考慮・分別するハタラキ」をまっすぐに直そうとしました。

だというのに、そういった考え方が円覚経や楞厳経でボロクソに言われてしまうのはなぜなんでしょうか?

夢窓国師:ものごとの考え方には、「縁生(えんしょう)」と「法爾(ほうに)」の二種がある。

様々な原因がからまりあってたまたま現在のような姿になっているという考え方が縁生で、そうではなくて究極の真理の中に元から含まれているものが認識されただけという考え方が法爾じゃ。

世間一般で考えられている火というものには実体がないのじゃが、これが原因となって色々なことが起こってくる。

火というものは、上手に使えば寒さが防げたり煮炊きができたりと大変便利なものじゃが、下手に使えば家財道具を焼失させてしまう危険なものにもなり得る。

で、世間では火の上手な使い方を研究し、危険がないように注意しているわけじゃ。

ただ、それはあくまでも火の縁生の側面について知っているというだけで、火に法爾の側面があることに気づいていない。

心もそれと同じで、縁生の心に実体がないとはいっても、下手に使ったならば現世で周囲の人たちが迷惑するだけではなく、本人も地獄に落ちて苦しむことになる。

逆に上手に使ったならば現世で周囲の人たちのためになるだけではんく、本人も極楽浄土に生まれ変わって楽ができる。

そのぐらいの理屈は一般人や外道でもわかることなので、彼らの中でもよくない心を押さえ込もうと努力する者はたくさんおる。

そうやって縁生、つまり実体のない「いつわりの心」をおさめていけば、確かに極楽浄土に生まれ変わることは可能じゃろうが、結局のところ輪廻転生は免れないのじゃ。

中国古代の賢人や聖人たちは、そういったものが「いつわりの心」だと気づくところまではいっておるのじゃが、そこで止まってしまっているので結局何度も何度も生まれ変わって苦しむハメになっておる。

それは要するに、世間の人たちが火を物理的な意味で上手に使おうとするだけなのと同じゃ。円覚経や楞厳経において、縁生の火、つまり縁火とは別に法爾の火、つまり性火があると力説されているのは、その辺りのことを残念に思ってのことなのじゃよ。


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