電気売りのエレン 第22話 by クレーン謙

僕とフレムは港町へ帰ると、長老に人魚の女王の事を話した。
長老は始めは半信半疑に話を聞いていたけど、僕が腰に差していた光り輝くセラミックナイフを見て言った。

「『光の剣士』の話なら聞いた事がありますな・・・。我々漁師の間でも、似たような言い伝えがあります。いつの日か『光の剣士』が現れ、侵略者をその剣にて打ち破るであろう、という古い言い伝えが。
すると、なんですかな?君がその『光の剣士』だという事かね?」

長老が僕の事を「こんな子供が剣士なワケがないだろう」とでも言いたそうな目つきで見た。
僕は少し恥ずかしくなりながら、長老に答えた。
「僕が『光の剣士』だなんて、僕も信じられないよ。僕はただの電気売りにすぎないんだから。 ・・・・・でもね、電気クラゲが元々人魚だと分かったら、もう、電気クラゲを獲る事はできないよ」

「フム、それは、そうでしょうな。人魚は我ら漁師にとっても、とても神聖な存在です。あなた方の話が本当なら、もう電気クラゲ漁はできません」

長老は次はフレムの方を向き、言った。
「フレム様、ヴァイーラは我らの生活を脅かす存在である事は、明確です。彼らは我らの資源を奪うだけではなく、我らの信仰の対象までをも踏み躙ろうとしています。この事は、漁師ギルドの会合でも度々話し合われました。すでに多くの仲間は武装決起を考えています。私は、ギルドの長老として、もはや彼らの怒りを抑える事が難しくなってきました・・・・」

フレムは長老の話に耳を傾けながら、窓の外に見える港を見ていた。
昨日まで港に停泊していた、ヴァイーラ伯爵のフリゲート艦がいなくなっていた。
どこかに偵察にでも行っているのかもしれない。
フレムは窓から目を向け、長老に向き直り、慎重に言葉を選びながら言った。

「今回、ワシも手を貸すよ。女王から聞いたのじゃが、元々ワシの弟子だった、ゾーラがヴァイーラと動いているらしい。ゾーラの魔術は強力じゃ。もはや、傍観をしている訳にはいかなくなった。敵も魔術を使うのであれば、こちらも魔術で対抗するしか、勝ち目はない」

どうしてフレムの弟子が敵になってしまったのか、僕には不思議だった。
海で人魚の女王の話を聞いてから、ずっと険しい表情を浮かべたままのフレムに、僕は恐る恐る聞いてみた。
「・・・・なぜ、フレムの弟子が敵になってしまったんだい?そのゾーラという魔術師は、どんな男なの?」

フレムは長老が注いだ黒茶を口に含ませながら、答えた。
「ゾーラはワシの弟子達の中でも、特に有能な男じゃった。ゾーラは誰よりも早く、魔術を習得した。もしや、生まれ持った魔術師なのかもしれぬ。ワシもゾーラの事は目にかけておった。・・・エレン、この事は覚えておくがよかろう。時によっては、身近にいる者の野望や野心が見えぬ事がある」
そのようにフレムは言うけど、僕には野心のために誰かを裏切ったりする、というのが信じられなかった。
フレムは僕の目をじっと見ながら、話を続けた。

「いくら魔術師とは言っても、所詮は人だという事じゃよ。勿論、ワシも例外ではない。ワシも昔、自分の野心のため魔術を使い、村をひとつ消してしまった。そう、ゾーラは誰よりも野心の強い男じゃった。あやつは恐らくは『魔術の国』の再興を狙っておるのだろう。どんな犠牲を払ってでもな。エレン、今ここで言うが、おまえの父を亡き者にしたのは、恐らくゾーラじゃ」

「なんだって!!」
僕は座っていた椅子から飛び上がり、叫んだ。

「エレン、考えてみるといい。腕利きの電気売りが、仕事中に稲妻に打たれて死ぬなんて事が、あるかね?・・・・恐らく、ゾーラはヴァイーラの命を受け、電気販売権を握る者達を抹殺しておるのじゃろう。証拠は何も残っておらぬが、ゾーラほどの魔術師であれば、それは容易い事だ」

僕は呆気にとられてフレムの話を聞いていた。
お父さんが誰かに殺された、なんて事を今まで一度も考えた事なんかなかった。
僕はいつだったか、夢で現れたお父さんの事を思い出していた。
夢の中で、お父さんは『光の剣』を握りしめながら、僕に何か忠告をしているかのようだった・・・。

フレムと長老の話し合いは、更に続いた。
太陽が水平線に落ち、空に舞う海鳥達が日の終わりを告げていた。
長老は立ち上がり、フレムに頭を下げながら言った。

「フレム様、もし我々についてくれるのであれば、こんな心強い事はありません。もうすでにギルドは、各地より武器を調達しています。フレム様の指示さえあらば、我らはいつでも決起ができます。・・・・なにせ、あなた様はあのヴァイーラ1世を石に変えてますからな。ギルドの皆も、フレム様の事であれば従うでしょう」

その時、扉がノックされ、髭面の漁師が入ってきた。
髭面の漁師は長老を見ると、言った。
「長老、集落の入り口にこのような張り紙があったので、持ってまいりました。わたしは字が読めませぬので・・・」

フレムは漁師が手に持つ紙を見ると、言った。
「それは『いにしえの言葉』で書かれているようじゃ。ワシに読ませてくれぬかね?」
フレムは漁師から、紙を受け取り、『いにしえの言葉』で書かれた字を読み始めた。
「何が書かれているんだい?」と僕はフレムに聞いた。

しばらく黙りこんでいたフレムは、カップに残っていた黒茶を飲み干し、テーブルに静かにカップを置きながら言った。
「これはゾーラからワシへのメッセージじゃよ。・・・・・エレン、どうやらあやつらはお前の妹を人質にしたようだ。
人質を無事に返してほしければ、話し合いに応ぜよ、という通達じゃ」

――――続く

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