「えっ!!」
レイがお父さんと会った事がある、と言うのを聞き、僕は森中に響き渡るような声をあげた。
「いつ?!」
レーチェルも僕と声を合わせて叫んだ。
一角獣はレイの声で、僕等に答えた。
「・・・・君達の世界でいう、5年前だ。君達のお父さんは、あの日、電気の実を採りにジョーと山へ登った。雷が多い、荒れた日だったんだ。ボクはさっきやったみたいにして、ジョーに雷を当て、ジョーを一角獣に変身させた。ジョーを通信回路として使うには、大量の電気が必要なんだ。そこで、ようやくボクはこの世界に侵入して、君達のお父さんと話をする事ができた」
「僕のお父さんと、どんな話をしたんだい?」
一角獣は、長く伸びたツノからパチパチパチと電気の音をたてながら、僕を見た。
「君達の世界に迫っている危機を知らせる為に。そして、その危機を救う『光の剣士』とは誰なのかを知らせる為に・・・・」
レイがそのように言うのを、僕は言葉を無くし、聞いていた。
旅を出た時には、こんな事になるとは思ってもいなかった。
僕はただ、良質の電気を手に入れたかっただけなのに・・・・・。
「『光の剣士』とはエレンの事じゃな。危機、とはヴァイーラの事かね?」
とフレムがレイに聞いた。
「そう、エレンが『光の剣士』だとボクはお父さんに伝えた。・・・危機とは、そのとおり、ヴァイーラの事だ。彼らは君達の世界を滅ぼす為にやってきた。でも、お父さんは、その事をエレンには伝えなかった。それどころか、お父さんは、エレンを『いにしえの言葉』から遠ざける為に、エレンを学校にも行かせなかった。言葉を学べば、光の剣に刻まれた呪文を読めてしまうかもしれないからね。お父さんはエレンを危険な目に会わせたくなかったんだよ、きっと。
君達のお父さんはね、世界を救う為に、自分で『いにしえの言葉』を学び始めたんだ。
そして、ある程度は自分で魔術も起こせるようになった。君達のお父さんは、一人でヴァイーラを倒すつもりだったんだ。
・・・でも、彼はゾーラの魔術で殺されてしまった。『光の剣士』が電気売りの中にいる、とヴァイーラは掴んでいたんだと思う」
レイがそのように言うのを聞き、レーチェルはとうとう泣き出してしまった。
僕も泣き出してしまいそうだったけど、なんとか我慢した。
何も言葉が出なくなった僕のかわりに、フレムが続けて聞いた。
「ヴァイーラはいったい何者なのじゃね?ヤツは人間ではなかろう」
一角獣はフレムの方を向き、一呼吸置きながら答えた。
「ヴァイーラは人間じゃない。ヤツはコンピューター・ウイルスだ。相手は誰かは分からないけど、君達の世界を破壊する為に、送り込まれた『自分で考えて行動する』ウイルスなんだ。
・・・・・ウイルスは英語で、VIRUS(ヴァイラス)と書く。ヤツの名前はそこからとったん
だ。
ヴァイーラは人間に成りすまし、世界を破壊する機会を窺っていた。
でもボクの父は、ウイルスの侵入を予測していた。だから、父はウイルスを破壊する為のプログラムを組んでいる。
最南の地より 強大なる王国 立ち現れし
その国力にて 7つの海を 征服せんとす
北の大地に現れし 「いにしえの言葉」を 操りし者
「レイ」と名乗る「光の剣士」と共に この王国を滅ぼさんとす
『予言の書』に書かれた、この一節がそうなんだ。ウイルスに、これを読まれるのを恐れた父は、全てを曖昧な表現にした。特に『光の剣士』は、誰の事か分からないように記した。ボクが、この世界にやってくる事を予測して、『光の剣士』の事を『レイ』と名前をつけているけどね・・・」
そう言ってレイは言葉を詰まらせた。
そういえばレイのお父さんは、行方不明になったって、さっき言ってたな・・・・。
僕はといえば、レイの話す壮大な話に、もう頭がクラクラしていた。
言葉を詰まらせていたレイは、再び話し始めた。
「おかげで時間が稼げたよ。ヴァイーラは『光の剣士』は誰なのか分からずにいた。
ヴァイーラ1世は、まずは魔術師たちを滅ぼす事にしたんだ。
彼は討伐軍を率いて、魔術の国を滅ぼし、『いにしえの書』を焼き払った。
人々を『いにしえの言葉』、つまりコンピューター・プログラムから遠ざける為にね。
人々は魔術を信じなくなったので、自分たちに迫りくる危機にも気づく事はなかった・・・・。
しかし、ヴァイーラ1世はフレムの返り討ちにあい、石に変えられてしまう。
でもヤツは自分の子供を残していた。それが今のヴァイーラ伯爵だ。
ヴァイーラ伯爵はとても狡猾なんだ。自分は商人だと偽り、敵である魔術師でさえ自分の手駒にしている。そして恐るべき計画を着々と進めている・・・・・」
僕はレイの話を聞きながら、ヴァイーラの船が撃っていた、あの恐ろしい大砲を思い出していた。
「『落雷の塔』と、あの光の大砲の事じゃな・・・・」
とフレムが口を挟んだ。
「そう。君達の世界は、電気で創られているんだ。この世界に広がる大海原、大地に広がる大自然、人々の営み、君達の喜びや悲しみ、空に瞬く星空。これらは全て、『いにしえの言葉』を基にして、電気信号が織りなしている世界なんだ。電気がなければ、君達の世界は消滅してしまう。
ヴァイーラは『落雷の塔』を建て、この世界の電気を全て奪おうとしている!
そして、その電気を武器に変えて、世界を一気に破壊するつもりなんだ・・・・」
次から次へと明かされる、この世の謎に、僕は呆気にとられながら聞いていた。
この世が全て電気で出来ている、というのは、もう全く信じられなかった。
僕は、さっきから黙ったまま話を聞いているマーヤの事をチラ、と見た。
「・・・・すると、この子も『ウイルス』なのかい?」
マーヤは、どこからどう見ても人間の女の子にしか見えなかった。
一角獣はマーヤの方を見ながら答えた。
「この子は人間に見えるけど、人間じゃない。マーヤはヴァイーラ伯爵の娘、つまり、次世代のウイルスだ。でも、どうやら、本人も最近その事を知ったみたいだけどね・・・・。
彼女はまだウイルスとして、発動していなかったので、敵の事を知る為に捕まえたんだ」
マーヤは、一角獣の事をギロッと睨みつけたけど、再び俯き無表情な顔つきに戻った。
その間、レーチェルはどういう訳か片時もマーヤの側を離れる事はなかった。
いったい二人の間で何があったのだろうか?
その時、背後の茂みからガサガサと音がした。
敵がやってきたと思い、フレムが身構えると、茂みから全身に火傷を負った男が現れた。
見覚えがるある男だった。そうだ、ギルドの長老の所にいた漁師だ。
男はフレムを見ると、バタリと倒れ、苦しそうに声を出した。
「・・・・フレム様、我らの集落がヴァイーラの軍船の攻撃を受けました・・・。
軍船は我らの集落に向け、あの恐るべき大砲の玉を次々と撃ってきたのです。
反撃はしたのですが、あの兵器の前では、何もする事はできませんでした。
港も、人々も、我々の家も、船も、跡形もなく消されました!集落があった所は、黒く焼けた
土地が広がるばかり・・・・・。生き残った仲間は私を含め、数名しかおりませぬ」
フレムはその男を助け起こしながら、聞いた。
「長老は?」
男は息絶え絶えながら答えた。
「・・・・残念ながら、長老も我らが集落と共に・・・・・」
――――続く
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