ガラパゴスゾウガメ 〜世界の子供達をミスリードするポケモンの罪とは

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第2回 ガラパゴスゾウガメ 〜世界の子供達をミスリードするポケモンの罪とは」

 ガラパゴスゾウガメはガラパゴス諸島にいる。ガラパゴス諸島は南米エクアドルの本土から900キロメートル離れた太平洋上に浮かぶ島々だ。正式名称はコロン諸島。コロンブスにちなんだ名称だが、ガラパゴス諸島の方が有名である。ではガラパゴスと言う呼び名ははどこからやってきたのか。実はスペイン語でカメのことをガラパゴと言い、そこからガラパゴス諸島と呼ばれるようになったそうだ。ということは、ガラパゴスゾウガメはカメゾウガメ、琵琶湖レイクと同じ構造だ。

 ガラパゴス諸島には大小合わせて123の島に名前がつけられている。いくつかの島にガラパゴスゾウガメが生息しており、それぞれの島の環境に合わせてちょっとずつ形が違う。ある分類方法では甲羅の形が鞍型、ドーム型、中間型の3つに分けられる。鞍型の特徴は甲羅の前方が高く反り返っており、首を高く持ち上げることができる。一方、ドーム型は甲羅の裾が広がっており、のっぽさんのチューリップハットのような形をしている。鞍型種はサボテンが生える乾燥した地域に生息し、首を伸ばしてサボテンを食べる種が多い。

 このように、島や生息域によってガラパゴスゾウガメの形態が違うことを発見し、チャールズ・ダーウィンは進化論を思いつくきっかけになったと言われている。進化は環境に適した個体が子孫を残すことで、その生物群集が世代交代を重ね、集団的に形態変化を起こし、やがて他のグループと交雑しないなど独立した種として分離されていくことを意味する。決して単一個体の形態が変化することではない。

 ところで、ポケットモンスターというゲーム、あるいはアニメーションをご存じだろう。ゲームの中でポケットモンスター(ポケモン)と呼ばれる小動物を捕まえ、トレーニングして対戦するというゲームである。この中でポケモンはある条件を満たすと形態が変化し、より強力なポケモンへと生まれ変わるのである。この現象をゲーム、アニメーションでは進化と呼んでいる。

 科学的な進化論を学習した者が後からポケモンの進化という現象を体験すると、この用語について違和感を覚える。先程も説明したとおり進化は生物群集が世代交代を重ね、集団的に形態変化を起こすことであるが、ポケモンのそれは単一個体の形態が変化することである。ポケモンの進化は変態と言うべきだ。ちなみに、変態とは昆虫が幼虫から成虫になる時、形態が劇的に変化する様子であり、小学校3年生で学習する。

 このポケモンを考案したゲーム会社の人も進化論について学習しているはずである。このポケモンの形態変化については変態と呼ぶべきだとも思っていたに違いない。しかし、変態の一般的な意味である性欲などが異常な状態にあることと言う意味でとらえられる可能性があるから、あえて変態を使わなかったのだろう。

 あるいは別の用語を考えていたかもしれない。開発当時、任天堂の会議室ではホワイトボードを前に形態変化をなんと呼ぶか会議が開かれていたはずだ。例えば、変態の英語表記で「トランスフォーメーション」、または「メタモルフォーゼ」はどうだろうかと平社員が提案すると、これらは音節が長く言いにくいので課長に却下された。「変化(へんか)」はどうだろうと係長が提案すると、今度は平社員からシンプルだがワクワク感がないと言う意見が出て却下。課長から「変化(へんげ)」は?と提案されるが全員から妖怪っぽいと突っ込まれ却下された。会議は深夜まで及び、終電が迫ってくる中、平社員が禁断の一言を言い放ったのである。

「ゲームですからいいんじゃないでしょうか。」

この一言で「進化」でいこうと決まったのである。 このようにして進化を学習する前の小学生に、間違った進化の概念を植え付けるネーミングが決まったのかどうかは定かではない。

 さて、ガラパゴスゾウガメを始め、ガラパゴスペンギン、ガラパゴスリクイグアナ、ウミイグアナ、ガラパゴスアシカなど、独自の進化を遂げている生物群からなぞらえて、孤立した環境で最適化が著しく進行することをガラパゴス化と呼んでいる。当然のことながら日本のガラケーがガラパゴス諸島で使えるわけではない。

 日本の携帯電話の発展はガラパゴス化の象徴とされているが、日本に生活している限りガラパゴス化は避けられないだろう。すでに言語、生活習慣などはガラパゴス化しているわけだし、消費者ニーズを追求すれば、これもまたガラパゴス化せざるを得ない。携帯電話業界では当時世界最高水準の技術力を持ち、携帯電話にカメラ機能、メール機能、インターネット機能を追加してゆき、顧客を囲い込むことで独自の進化を遂げた。しかし、AndroidやiPhoneなどのスマートフォンが台頭しグローバリゼーションの波にのまれて絶滅危惧種となってしまった。

 ところが、今でもガラケーを愛する人たちは多い。ガラケー愛護団体が設立されたというニュースを聞いたことがないし、ガラケー愛好者は保護団体を発足させる必要もないくらい力強く生きている。日本はガラパゴス化する宿命なのである。

 ガラパゴスゾウガメは脊椎動物の中で最も寿命が長いと言われていて、平均寿命は100年を超える。また、代謝を抑えて飲まず食わずの状態でも1年は生存できたそうだ。そのため、大航海時代にはガラパゴスゾウガメを船内に備蓄し食料としていたことから、多くのゾウガメが持ち去られ絶滅の危機にさらされている。ガラケーとは違い保護が必要だ。

 今ではガラパゴス諸島の主な産業は観光で、環境保全と観光を融合させたエコツーリズムを基盤としている。ガラパゴス化した日本が生き残るためには、ガラケーにポケモンGOを搭載させたVRゲームを開発し、世界から人を呼び込むポケモンツーリズムが必要だ。

<編集後記>
※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第2回「ガラパゴスゾウガメ」 と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第2回「ガラパゴスゾウガメ 〜世界の子供達をミスリードするポケモンの罪とは」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ポケモンと進化論、日本のガラパゴス化とポケモンエコツーリズム待望論、いずれも妄想感溢れる展開に圧倒されましたが、ポケモンについてはラジオでも語られていました。ポケモンの変身を「進化」と呼ぶことに関しての「憤りを感じてんねん」(エッセイではわかりませんがラジオでのぐっちーさんは関西弁)という一言に私は大爆笑し、この番組に大きく心を掴まれるきっかけとなったと言っても過言ではありません。ポッドキャストはまだ、という方もぜひ聴いてみてください

ガラパゴスゾウガメといえばつい昨年、絶滅したと思われていたガラパゴスゾウガメ種群の一種、「フェルナンディナゾウガメ」が100年ぶりに見つかったという、ゾウガメファンにはたまらないニュースがありました。日本のガラパゴス化は100年後にはどんな様相を呈しているのかにも、興味が尽きませんね。

さて今回もやります、Twitterでぐっちーさんと話そう企画!

前回の「クマ 〜北海道土産の定番・鮭をくわえた木彫りの熊が世界へ羽ばたくとき」の時にも実施しました、エッセイを読んで、ポッドキャストと聴き比べて、そうでなくても、ガラパゴスゾウガメやガラパゴ化やポケモンについてぐっちーさんとお話しよう! という企画を今回もやります。前回の様子はこちらをご覧ください。

こちらのアカウント 斎藤雨梟 on twitter @ukyo_an で告知しますのでご注目ください。

こんな風につぶやきます(例として、前回のものです)ので、

みなさまもよければぜひ、ぐっちーさんへの質問、エッセイの感想、ポケモンと進化について、などなど告知ツイートに返信する形でご参加下さい。ぐっちーさんが何でも答えてくれる! かも!? (コメントは後日こちらのサイトで紹介させていただくことがありますのでご承知おきください) どうぞよろしくお願いいたします。

ちなみに寝つきの悪い私は、ポッドキャストを寝る前にスリープタイマーを使って聴く派です。タイマーは30分、まだ眠れそうにないと延長します。最新回を聴く日はつい最後まで聴きたくて夜更かしになったりはしますが(明日の楽しみにと理性的にとっておくこともあります)、意外とこれが、周囲の物音や雑念が気にならなくなり、ほどよく集中できて寝入りやすいのです。入眠前に聴くには、内容が面白いだけでなく、内容・声の調子や語り口が穏やかで、音量が安定していることも大事ですがその点でも妄想旅ラジオは素晴らしい!

↓「寝ホン」などと呼ばれるこのような小さなイヤフォンだと寝る時でも耳が痛くなりません。↓