電車 居眠り 夢うつつ 第24回「居眠り男は電気鉄道の夢を見るか?」

<夢1>
私は、中年の白人男性と一緒に駅の階段を上っている。「君は小説を書いたことがあるか」と尋ねられたのだが、電車の時間が迫っていたので、「昔書いたけど、時間がないから、また今度話そう」と言って、私は改札に向かった。

<夢2>
電車の中。人間の腰くらいの背丈のロボットたちが大勢で私たちを追いかけて来る。小さくて不恰好なロボットだが、走るのは結構早い。私たちは電車の中を、前方に向かって全力で走って逃げる。

<夢3>
駅で中国人の青年に話しかけられた。彼はある駅に行きたいらしいのだが、ほとんど日本語が話せない。私は責任もって案内しなければと思い、彼と一緒に目的地まで行くことにした。だが、路線図が見つからず、あちこち探し回った。なんとか途中の乗り換え駅まではたどり着いたが、ずいぶん時間がかかってしまった。私は「あの電車に乗りなさい」と指差して、彼と別れた。

<夢4>
私は歯医者に行くことにした。家の近くではなく、電車で1時間くらいかかる評判の良い歯医者に行くことにし、駅へ行った。だが、乗り継ぎがわからない。乗り換え駅の載っている路線図も時刻表も見つからない。ホームで探し回っていると、電車が来た。これに乗れば良いらしい。だが、時計を見るともう午後6時だったので、私は行くのをやめて家に帰ることにした。

☆     ☆     ☆     ☆

電車は便利だ。乗りさえすれば、遠くまで連れて行ってくれる。座っているだけでいい。居眠りしていたっていい。ただし、乗るべき電車を見つけて、発車時刻までに乗ることができれば、の話。

たとえば外国の大都市のターミナル駅で。案内板はほとんどないし、あっても僕には読めない。予定より15分遅れでホームに入ってきた列車の行き先表示は、僕の目指す駅とは違う名前だ。それでもインフォメーションの訛りの強い英語を話す案内係の言葉を信じて、僕は乗り込む。それ以外に何ができる?

クリスマスシーズンの日曜の午後。同じ車両には、幸せそうな家族連れやカップルたち。品の良いコートを着て、デパートの紙袋を抱え、僕には理解できない言葉で会話をはずませる。僕だけが何もわからないでひとりぽつんと座っている。

電車は、一種の密室だ。一度発車したら、次に停車してドアが開くまで、誰も外に出ることはできない。

列車がダウンタウンを離れ、窓の外が寒々とした町外れになると、乗客はまばらになっている。
ふと僕は、客たちの身なりがすっかり変わってしまったことに気づく。ときおり無遠慮な視線を僕に向ける中年の男は、襟と袖口の汚れたダウンジャケットに色の冷めたブルージーンズを履いている。その隣では太っている上に着膨れしたおばさんが、同じくらい膨れたショルダーバックからコーラのペットボトルを取り出して飲み始める。
突然の大声に驚いて振り返ると、ヘッドホンをつけた背の高いドレッドヘアの若者が、大きな声で歌っている。連れらしい小太りの男が、真っ白な歯を見せてhahahaと笑う。

僕は、目指す駅の名前が呼ばれるのを聞き落とすまいと、必死で車内アナウンスに聞き入る。もう少しだ、もう少しだと自分に言い聞かせながら。

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