電車 居眠り 夢うつつ 第50回「アシモフにハマる」

47回の原稿を書きながらアシモフのロボットもののことを思い出して以来、すっかりアシモフにハマっている。高校生の頃にだいぶ読んだのだが、今改めて読んでみると、本当に面白い。
アシモフというと、ロボット三原則や心理歴史学などで有名だが、今読み返してみると、彼の小説の面白さは、そういうSF的な道具立てだけではない。人間心理に対する洞察も鋭く、また妙に現代的なテーマを扱っていることに驚かされる。

「裸の太陽」(1957年。「鋼鉄都市」の続編)では、人類は恒星間ロケットと陽電子頭脳ロボットの技術を携え、銀河中に広がり、惑星ごとに国家を作っていた。だが、地球にとどまる人々もいた。「地球人」は、ロボットを忌み嫌い、広い宇宙や、それどころか彼らのドーム都市の外に広がる大地までも恐怖し、狭いドーム都市の中に密集して暮らしていた。
一方で、物語の舞台である惑星ソラリアに住む人々は、最新のロボット技術を駆使していたが、反面、人間同士の生の付き合いを病的に嫌悪し、ほかの人と同じ部屋に居ることさえできなかった。ひとりひとり分かれて自分の領地に暮らし、他人とは立体映像を通して交流するのみだった。
新しいテクノロジーを嫌い、旧弊の枠に閉じこもって生きる地球人と、最新のテクノロジーを使いこなすが、人間同士触れ合うことができないソラリア人。なんだか、会社人間の情弱おじさんと、SNSでしか繋がれない若者の対比のようである。

もう一つ、やはり妙に現代的なテーマを扱っているのが、短編「火星人の方法」(1952年)だ。
この物語の時代は、「裸の太陽」の時代より数世紀前、火星の植民地化の開始から数十年後だ。この時代のロケットは、推進剤として水を使っている。
地球のある政治家(ヒルダー)が、「火星人(火星に移住した人類)が、ロケットの推進用に地球の水を大量に浪費している」と言って、反火星キャンペーンを始めた。この運動が予想外の広がりを見せ、火星の人々は困惑する。
火星の長官が、ある地球の政治家に、どうしたら良いかと相談する。長官は、火星人のロケットが使う水が、地球の海水の量に比べればごくわずかであることを、データを示して訴える。だが、地球人は火星人に同情しつつも、そういう理屈は無力であると諭す。

「長官、惑星連合は、ヒルダーに対する反対運動を起こした際にもさような算術をあげましたが、冷たい算術で、激越な感情論を抑えることはできません。
ヒルダーという人物は、<浪費者>なる名称を発案した。彼は徐々にこの名称を、大規模な陰謀の代名詞のようにひろげていったのです。当面の己の利益のために地球から略奪している野暮で我利我利亡者の破廉恥漢というように。
政府は彼ら(火星人)に欺かれている。議会は彼らに支配されている。報道機関は彼らに掌握されていると言って、彼は糾弾しました。こうした非難は、遺憾ながら平均的人間にとっては馬鹿げているとは受け取られなかった。(中略)ヒルダーは農民に非難の対象を与えてやったのです。それは天災に対する最も強力な慰謝なのです。」

まさに「地球ファースト」である。そして火星人の示す科学的データは「冷たい算術」であり、「激越な感情論」の前にはまったく無力なのだ。
結局火星人たちは、ヒルダーを論破しようなどという努力は捨て、まったく別な「火星人の方法」によって活路を見出すのだが、ネタバレはやめておこう。興味のある人は、ぜひ作品を読んでいただきたい。

(by みやち)

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