【 時間どろぼう魔談 】モモ(18)

第18章【 まえばかり見て、うしろをふりかえらないと…… 】

この章タイトルにも微妙に対比関係が仕組まれている。「まえ」と「うしろ」。前ばかり見て後ろをふりかえらないと、どうなるのか?……その結果は、この18章のラストシーンにおける「灰色の男たち」の末路を示している。

さて18章。この長い物語もいよいよラストステージに入ってきた感じだ。この章ではまずカシオペイア(カメ)がモモのところに戻ってくる。それは誠にめでたいのだが、それにしてもこのカメの行動と言葉(甲羅に浮かび上がってくる光る文字)はじつに不可解だ。
(1)マイスター・ホラに仕えている。
(2)30分先の未来までなら見通す能力を持っている。
(3)モモを守ろうとしている。
……ということははっきりしているのだが、モモの前から突然に去ったり、再び出てきたり、謎めいた言葉を発したり、考えていることも行動も読めない。しかもマイスター・ホラのところに行こうとモモに提案しておきながら、この緊迫状況でも相変わらずのノロノロ歩行。「まあ要するに、モモだけでなく読者もイライラさせようとする存在なんだな」と思わざるをえないようなキャラクターだ。イラッときたモモが思わず「お前を抱いて行っちゃいけない?」と提案するのだが、それさえも拒絶する始末。

少々余談。
こういう「憎まれ役」……わがままで、自分勝手で、性格に問題があるキャラクターは、物語やアニメや映画などで、往々にして主人公のすぐ傍に配置されることが多い。その問題キャラ(笑)の言動により、主人公の生き様により大きなドラマチックな波乱を巻き起こす効果が期待されるからだろう。ムーミンにおけるミー、カーク船長(スタートレック)におけるスポック、バットマンにおけるジョーカー。ジェフ・トレーシー(サンダーバード)におけるフッド。みな身勝手なわがままぶりをじつに遺憾なく発揮しており、我々の内部にある「わがまま性」を刺激してくれる。

この最後に挙げたフッドなのだが、私はこの悪党が好きで、彼が出てくるとワクワクする。顔を見るとやたらにぶっとい眉毛しか記憶に残らないようなチャイナ系のスキンヘッドおじさまなのだが、とにかくサンダーバード一家を憎んでいる。サンダーバードの救助活動を邪魔し、その本拠地を暴くことしか頭にないような男なのだが、逆に反撃されて、操縦していたヘリが撃墜されたりする。「これは普通、死ぬでしょ」と思って見ていると、地上に墜落して大破したヘリの残骸から頭を出して「いまに見ていろ!サンダーバードめ!」と毒づいたりする。ターミネーターレベルの不死身なのだ。そこがまたいい。

さて本題。
モモ&カメはノロノロとマイスター・ホラのところに向かうのだが、もちろん「灰色の男たち」がこれを見逃すはずはない。彼らはモモ&カメを捕えるまでもなく、そのままモモ&カメを尾行してマイスター・ホラの居場所を突き止めようとする。カメの不可解さに比べて、こちらはじつに明快で筋の通った作戦だ。

しかしこの物語の世界では、「明快で筋の通った作戦」がむしろ通用しない。マイスター・ホラの宮殿に接近するにしたがって、様々な「さかさま現象」が発生し始める。性格に問題のある魔法使いが考案したとしか思えないような現象が支配するエリアに突入する。モモ&カメは「ゆっくりと歩くほどに早く進む」道に入る。追跡する「灰色の男たち」もこの現象に気がつく。そこで彼らはさらにゆっくりと追跡し、モモ&カメに急速に接近していく。

ところが……
ここで章タイトルに示された現象が起こる。モモ&カメは「さかさま小路」に入る。モモは以前にもこの小路を通過しているので、ここでは「後ろを向いて歩かなければ、先に進めない」という法則を知っている。そこでモモは後ろを向き、追跡するためにひしめいている「灰色の男たち」を見つけてしまうのだ。

驚いたモモは後ろ向きのまま「さかさま小路」に逃げこむのだが、「灰色の男たち」は「さかさま小路」の法則を知らない。振り向いたモモがたまたま自分たちを発見したのだと思っている。ひそかな尾行が見つかってしまった以上は、突撃。これまたじつに明快な作戦だ。
彼らは雪崩のように「さかさま小路」に突入する。その小路の法則を破った罪として先頭の男たちは消滅。大部隊はパニックとなり、それ以上は進めなくなってしまうのだ。

モモはようやく「どこにもない家」に到着。精魂尽きた感じで、そこにあったソファーに倒れこむのだった。

【 つづく 】


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