配信で見られる傑作「ハウス・オブ・ダイナマイト」(米)、配信でしか見られぬ秀作「This is I」(日)

WBCの中継をネットフリックス(以下ネトフリ)が独占した。見られない野球ファンの呪いだろうか、日本チームは準々決勝で敗退した。
さて、ネトフリで見られる昨年公開の「ハウス・オブ・ダイナマイト」が面白い! 実際、昨年度のキネ旬ベストテンの洋画部門の17位だ。

「ハウス・オブ・ダイナマイト」監督:キャスリン・ビグロー 出演:イドリス・エルバ レベッカ・ファーガソン他

「ハウス・オブ・ダイナマイト」監督:キャスリン・ビグロー 出演:イドリス・エルバ レベッカ・ファーガソン他

「ハウス・オブ・ダイナマイト」とは、「爆弾が詰まった家」のこと。爆弾とは核のこと、すなわち、この世界は核兵器まみれの危険な状態にあるということだ。
ある日の朝、ホワイトハウス内の危機管理を扱うオフィス(「シチュエイションルーム」と呼ばれる)のレーダーに、アメリカを目指してICBM(大陸間弾道弾)が飛んで来ているのが発見される。映画は、その対応を巡って、危機管理のチーム、国防大臣、大統領などの人物がどう行動していくかを冷静にリアルに描いていく。

アメリカには迎撃ミサイルがあり、これが発射されるも命中しない。ミサイルが向かうのは人口1000万の大都市シカゴで、もう秒読みの段階だ。どこの国が撃ってきたのか分からない。危機管理チームの一人が確認のためにロシアの大統領と電話で話したりする。
アメリカの大統領は、このまま1000万の人を死なせた後、核で反撃の行動を取る方がいいのか取らぬ方がいいのか、迷いに迷う。

見始めて10分程度で、この映画の中に引き込まれる。まことにリアルで緊迫感に溢れるのだ。
こんなにリアルかつ正確そうに(多分)作ってある管理室を見たことが無い。また、移動する大統領には常に軍人が付いていて、反撃の「核の撃ち方の手順」が載ったマニュアルを大統領に示したりする。登場人物たちは家族を持つ人間として、深刻な事態を知らぬシカゴに住む夫や息子、あるいは娘の生命の危機を考えざるを得ない。

レーダーでミサイルを発見し、最終的に大統領がどんな決断を下そうとするか、同じ20分ほどの出来事を、異なる登場人物の視点で、3回反復して描く構成も見事である。
絵空事ではない。我々自身がこの核時代に生きているので恐怖を感じるのだ。トランプのイラン爆撃を見ていると、戦闘がエスカレートしていき、最悪、核が使われかねないと不安を感じてしまう。

余談だが映画の中で、国務長官が、迎撃ミサイルが成功する確率が61%と知らされるシーンがある。これを受けて、誤解しないようにと、現実の国防省がその確率は100%である、というコメントを出したそうだ。

監督はキャスリン・ビグロー。「タイタニック」「アバター」の監督ジェームズ・キャメロンの元奥さん。2008年には、イラクの戦場で不発弾を処理する人たちを描いた「ハートロッカー」でアカデミー作品賞を受賞している。

好きな映画をもう一本! 日本でも、映画界の才能が次第にネトフリに持って行かれているようだ。潤沢な資金、高いギャラ、スポンサーに忖度することなく好きなように作れる魅力があるのだ。
これまでネトフリで見た傑作・秀作に、韓国「愛の不時着」「イカゲーム」、日本「全裸監督」「地面師たち」「極悪女王」があり、どれもおススメだ。

「This is I」監督:松本優作 出演:望月春希 斎藤工ほか

「This is I」監督:松本優作 出演:望月春希 斎藤工ほか

今回見たのは2時間だが日本の「This is I」が素晴らしかった。これはネトフリでしか見られない。後で知って驚いたが実話。私は知らなかったが、はるな愛というトランスジェンダーで活躍する女性タレントをモデルにしている。
子供のころから唄が大好きな大阪のケンジという若者が、男性から女性への性転換手術を受けて女性として生きていく半生を描く。彼の手術を担当したのが和田耕治医師(斎藤工)。

演出がテンポよく快調なのだ。松田聖子の名曲に乗って、華やかで明るい歌がどんどん出て来る。ミュージカルになるシーンも幾つかあり、ポップで楽しい。
当時、日本ではそれ程たくさんこの種の手術が行われておらず(40数年前だ)、外国の文献を研究しながら行う。和田先生も医師としていろいろな苦悩がある。警察の嫌がらせにも負けず、性転換の手術を600回行うが、その第一号がケンジなのだ。

この映画の最大の美点は、主役ケンジを演じた望月春希と言う、ほとんど無名の19歳の俳優の演技の見事さ。大変に繊細な演技をする。台詞も踊りも上手い。表情も豊か。まったく、この「ケンジ」本人がその場にいて演じているようなのだ。
監督は先年「WINNY」という映画を撮った松本勇作。パソコンソフトの著作権を争う男の実話。東出昌大主演でこれも面白かった。

(by 新村豊三)

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