「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」の衝撃、そしてベトナムを描く「ハーツ・アンド・マインズ」

日頃は客の少ない新宿の映画館、平日の昼の回でも満員だった。
「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」はベトナム戦争のPTSDで、まともな生活が送れない黒人のネルソン氏が、新しいカウンセラーのもと、ベトナム戦争で人を沢山殺した事を話していくことで、段々、精神が回復されていく話だ。最後に知ることになるが、実話であった。

監督:塚本晋也 出演:アレン・ネルソン ジェフリー・ラッシュ他

監督:塚本晋也 出演:アレン・ネルソン ジェフリー・ラッシュ他

彼の除隊後の現在の生活と、ベトナム戦争時の海兵隊としての回想が描かれるが、その海兵隊の生活の描写がなまなかでない。
まず、徴兵されて沖縄で猛訓練を受ける(実はそのことを知らなかった)。上官が教え込むのは真にシンプル。
1.考えるな  2.命令に従え 3.殺せ。

戦場描写がまことに強烈だった。塚本監督の「野火」(2014)を見た時、これほどリアルで怖い戦場描写はないと思った記憶がある。今回はそれ以上。
目を覆う虐殺が展開する。兵士がベトコンを探して、罪もない子供、女性も殺していく。数を数えるため耳をそぐ。死体を燃やす。本当にリアル。音もスゴイし、死体の匂いまで感じられるようであった。
人を人と思わない。アメリカって、よその国に出かけて行っては、人を殺し、結局負けて撤退する。昔からバカで酷い国だ。

ネルソン氏はベトナム人が絶命する前に、「お前も黒人なら、自由のために戦え」と言われる。また、出産する女性を目の前で見たために何かが変わり、除隊30日前には、恐怖が襲ってくる。大変リアルな感じがあった。

カウンセラー(ジェフリー・ラッシュ好演)とのセッションでは、何度も何度も「なぜ、人を殺したのですか」と聞かれる。それゆえに、戦争だからだ、命令されたからだ、殺さないと殺されるからだ、と心の奥底にわだかまっていたものを言葉に出して吐き出す。少しずつ気持ちが回復して行く。

そして、そこまで達しても、それでもカウンセラーは同じ質問をする。そして、ついにネルソンさんは「人を殺したかったからだ」と答える。
自分がマイナーな黒人であり、父親も軍隊経験があり、家庭では暴力的な父親であったことに対する辛い思いを吐露することになる。

人間とは、何と複雑で、悲しい存在であることか。映画はここまで踏み込んでいる。ここのところは、映画として深いなあと思った。また、ベトナム戦争の前線に行くのは貧しい白人、黒人などの国内でも差別を受けている人たちだ。それも初めて知ったのだと思う。

息子が高校生になってからの映画の展開はやや平板になったが、息子の高校に出かけて行き海兵隊としての自分の経験を話す場面で、最初は話を聞く姿勢がなかった高校生たちが、段々話を聞いていくシーンは、まあ、定番の演出とは言え、胸に響くものがあった。

人間って上手くいかない生き物だ。最近、ますますその思いを深くする。人類の未来ってどうなる?不安があるが、まあ、あと20年は生きて、その行く末を見届けたいと思う。

余談。80年代、勤務先の学校の英会話の講師にベトナム戦争に行った30代のアメリカ人がいた(ぼくより、数歳年上)「もう戦争の意味が分かんなくて、毎晩、マリファナをやってたよ。ヘリコプターに乗ると、下から撃たれるから、ケツにヘルメットを当てていたさ」と言っていた。
彼、面白い人だった。トライアスロンをやっていた体育会系。上智大でロシア語を学び、日本映画の「二百三高地」(1980)にも出演した。戦場で、死にかけ、通りすがりの親切な日本兵に水をもらったあと、その日本兵を銃で撃ち、自らも息絶えていくというシーンだった。

 

監督:ピーター・デイビス 製作:バート・シュナイダー ピーター・デイビス

監督:ピーター・デイビス 製作:バート・シュナイダー ピーター・デイビス

好きな映画をもう一本! 未見だったドキュメント「ハーツ・アンド・マインズ」(1974)を見た。ベトナム戦争とは何だったかを理解する最良の一本だろう。
様々な人に、ベトナム戦争とどう関わったか、どう思うかをインタビューしている。アメリカ軍の元将校、戦車に乗って攻撃した兵士、戦死した兵の家族、帰還した捕虜兵、またベトナムの神父、政治犯、ジャーナリストたちだ。

合間に、爆撃、民間人の殺戮、農村での民家への放火、売春宿、あるいは大統領、政府高官発言などの記録映像が差し込まれていく。
路上で突然射殺される解放戦線の兵士のシーンには言葉が出ない。親を殺され葬式で泣きじゃくる少年、ナパーム弾で体を焼かれ裸で逃げる少女。胸が掻きむしられるようだ。
改めて、アメリカという国の酷さに怒りと悲しみが湧く。ベトナム人を虫けらとしか思ってない。

(by 新村豊三)

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