独創的な近未来作品「ペナルティループ」、ヒューマンな震災映画「さよなら、ほやマン」、素直な感動作「瞼の転校生」

まだ1、2作しか撮っていない3監督の傑作・秀作を紹介したい。
まず、荒木伸二監督の二作目「ペナルティループ」。第一作は2020/9/30の回で挙げた「人数の町」。この映画は近未来のディストピア社会を描いた佳作だが、今度の作品は内容も表現も格段にアップした傑作である。

監督:荒木伸二 出演:若葉竜也 伊勢谷友介 山下リオ他

監督:荒木伸二 出演:若葉竜也 伊勢谷友介 山下リオ他

主人公の岩森(若葉竜也)が朝、目覚めるとラジオ放送が「6月6日、朝6時、天気晴れ」と流れる。その後、彼は、復讐のために、工場で男(伊勢谷友介)を殺し遺体を川に投げ捨てる。翌朝、彼がまた目覚め、また同じ放送が流れ、彼は同じ男の殺人を行い、前の日と同じことを繰り返す。翌日も、その翌日も同じことが繰り返される。すなわち、殺人が繰り返される同じループが起きてしまうのだ。

決して陰惨な話ではない。少しだけネタバレを書くと、これは近未来の、「頭の中で起こる」犯罪者への復讐システムなのだ。
話が独創的で、これは何だ、何なんだと、引き込まれて、頭から終わりまで面白い。最初の殺人はほとんど台詞無しで描かれており緊迫感がある。勤務するのはレタス栽培工場なのだが、この場所も、無機質感を生み出していて効果的だ。つまり、演出は随所で考え抜かれている。

役者も、若葉竜也がいい。今の時代の若者のように優しく、悩みながら生きている切ない感じが出ている。また、伊勢谷も、青葉と対比的に、暴力的な感じと精悍でクールな感じが出ていて、これも好演だ。
ストーリーや演技に加えて、撮影の良さにも感心する。ショットが的確で、川面や湖面の光、大木のそそり立つ感じなどがとてもいいのだ。
頭の固い(?)私は、普段、この手の映画は理解できないことが多いのだが、話に無理が無く面白く見てしまった。徐々に二人の間にある関係が生まれていく描写もあり、そこも、なるほどなあと思わされて、いい。
おそらく、この知的な、近未来SF的(?)世界は、日本映画で、まだ誰もやっていない。荒木監督にはこれからもこの分野で面白い作品を撮ってもらいたいと思う。

監督:庄司輝秋 出演:アフロ 呉城久美 黒崎煌代ほか

監督:庄司輝秋 出演:アフロ 呉城久美 黒崎煌代ほか

さて、2011年の東北の震災からはや13年。いろいろと震災・津波映画を見てきたが「さよなら、ほやマン」ほど心動かされた作品は無かった。昨年11月公開で、今年1月に観たが正に隠れた傑作。

宮城県石巻市の小さな島に兄弟二人が暮らしている。兄はほや漁で生計を立てる漁師、弟にはやや知的障害がある。この二人、何故か、海で獲れたものを一切食べずカップラーメンばかり食べている。
東京から、人間関係がイヤになって逃げだしてきた人気女流漫画家がやって来て、二人の家を気に入り、大金を見せて、一緒に暮らし始めることになる。兄は「さよなら、ほやマン」という映画を作ってYOUTUBEに上げると人気が出はじめるが……。

随所に大笑いする箇所があるが、真面目でヒューマンな人間ドラマである。テーマは兄弟が震災で受けたトラウマの克服だ。終盤、夜、兄が一人で沖に船を出すシーンは涙なしには見られない。アニメと実写を巧みに使い、坂田明のサックスが鳴り響く。音楽は、福島出身の「あまちゃん」の大友良英だ。

兄弟を演じる俳優も素晴らしい。兄は、「顔」と「声」が印象的なミュージシャンのアフロ。弟は知的障害を演じるとなかなか上手い黒崎煌代(「ブギウギ」でも主役の弟役を好演)。この映画、ほとんど知られていないからこそ、機会があれば騙されたと思って是非ともご覧になってほしいと願う。
監督は庄司輝秋。ご自身、石巻の実家が津波で流されている。商業長編作品はこれが初めて。

「瞼の転校生」監督:藤田直哉 出演:松藤史恩 齋藤潤 葉山さら他

「瞼の転校生」監督:藤田直哉 出演:松藤史恩 齋藤潤 葉山さら他

好きな映画をもう一本! 公開中の「瞼の転校生」が意外な秀作だ。
父親が大衆演劇の座長で全国を回るため、転校して来ても一か月しか中学校に通えない主人公裕貴が、成績はクラストップだが不登校の建と友達になる。同じクラスの元カノ茉耶も入れて、素直な友情が生まれるのがいい。
盛り上がるのは、転校直前に建を招待して、裕貴が大衆演劇の「瞼の母」を演じるシークエンス。ここの展開は胸にグッとくる。

ラスト、「カサブランカ」(1942)の台詞This is the beginning of a beautiful friendship.を思い出す。3人の関係だけでなく、アイドルを夢見て挫折した年上の女の子浅香の成長も描かれ、とても後味がいい。
舞台は荒川沿いの埼玉県川口市。大衆演劇は北区十条にある篠原演芸場が舞台。
監督は藤田直哉。まだ33歳、これがデビュー作だ。

(by 新村豊三)

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