将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第30回 by 風木一人

みんなの実力が上がってきたので、シュウイチが教えることもレベルアップしている。
できる限り感想戦をやるように、と言う。
感想戦というのは、勝負がついてから一局をふり返って、ポイントとなった局面、おたがいの好手や悪手を研究することだ。テストのあと答え合わせをして、まちがえたところを勉強し直すのと同じで、これをやれば必ず力がつく。しかし一手一手をきちんと記憶していないとできないから、初心者同士では難しい。トモアキたちが、ときどきわからなくなりながらでも、感想戦を行なえるようになったのは、大きな進歩だ。

シュウイチは感想戦に加わり、局面に応じて、手筋や格言を教えてくれる。

手筋とは実戦によく現われるいい手のことだ。将棋では盤面すべてが同じになることはまずないが、部分的に同じ形になることはよくある。形にはそれぞれ急所があって、そこをつく手筋を知っていれば、攻めにも守りにも役立つ。
一方、格言は、将棋のコツをかんたんな言葉で現わしたもので、昔から将棋を指してきたたくさんの人たちの経験と知恵の宝庫だ。たとえばこんなものがある。

「玉飛接近すべからず」
「大ゴマは近づけて受けよ」
「開戦は歩のつき捨てから」
「終盤はコマの損得より速度」

いずれも実戦の中で、なるほど! とうならされる名言だ。
将棋でいちばん大切なコマ「王」に関係する格言は数々あって、そのうちの一つ、「王の腹から銀を打て」を教えたとき、シュウイチはこんな話をした。

「ぼくはこの格言が好きなんだよ。言葉通りの意味だけじゃなくて、もっと深い意味があるように思うんだ。銀は横に行けないんだから、王の横に打っても王手じゃない。将棋の目的は王を取ることなんだから、本当なら横に行ける金や飛車を打ちたいはずだ。王手! とね。
でも銀を打ちなさいと教えている。ほしいものをいきなり取りにいくんじゃなくて、一呼吸おいて次に取りにいく。あせっちゃいけないんだな。はやる気持ちをおさえて準備を整え、次に決定打を放つ。これって将棋のコツなんだけど、なんだか将棋以外のことにも当てはまりそうな気がしないかい?」

――――続く

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