【 魔のホテル4 】「シャイニング」で激突!スタンリー・キューブリックvsスティーブン・キング

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さて一方のスタンリー・キューブリック。映画「シャイニング」以前の彼の作品5本を並べてみるとこうなる。その時点でのキューブリックの年齢を調べたついでに、19歳年下のキングの年齢も付記した。

「ロリータ」(1962年)キューブリック34歳(キング15歳)
「博士の異常な愛情」(1964年)キューブリック36歳(キング17歳)
「2001年宇宙の旅」(1968年)キューブリック40歳(キング21歳)
「時計じかけのオレンジ」(1971年)キューブリック43歳(キング24歳)
「バリー・リンドン」(1975年)キューブリック47歳(キング28歳)
「シャイニング」(1980年)キューブリック52歳(キング33歳)

……というわけで、なんとまあ綺羅星のごとく映画史に燦然と輝く名作・傑作・話題作がずらりと並んでいる。31歳の新進気鋭作家が怒りまくって「原作と違う!」と抗議してきたところで、キューブリックは喧嘩になるような相手ではなかった。キングが地元高校からメイン大学に入学し学内新聞小説に熱意を傾けていた時代に、キューブリックはすでに映画界の巨星だったのだ。21歳のキング青年はおそらく田舎町の映画館で「2001年宇宙の旅」を観て衝撃を受けたのだろうと勝手に想像しているが、10年後にその映画監督と激突することになるとは想像もしなかっただろう。

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しかし巨星でもつまづくことがある。いや「つまづく」という表現は適当でないかもしれない。キューブリックとしては自信満々の作品だったのかもしれない。「バリー・リンドン」では彼はカメラレンズと照明にこだわり、なんと通常の映画撮影における照明を全く使用せず室内撮影した。「ロウソクの光だけで18世紀の室内を再現した鬼才」と言われている。「黒澤明が絶賛の手紙を送った」とか「この映画こそがキューブリックの真の代表作」と映画雑誌で読んだ記憶がある。
しかし結果として「バリー・リンドン」は、それ以前の彼の作品と比較して興行収益がイマイチだった。あなたももしかしたら「キューブリックという映画監督の名前は聞いたことがある。ロリータも、博士の異常な愛情も、2001年も、時計じかけも観たことがある。でもバリー・リンドンは観てない」ではないですか。
ちょっと調べたい気分になったので、キューブリックを知っていそうな5人の「洋画好き」(男3/女2)にメールを送って聞いてみた。4人が「バリー・リンドンは観てない」だった。

この話は一見、映画「シャイニング」とはなんの関係もないように見える。しかし「バリー・リンドン」と「シャイニング」は水面下で繋がっている。つまりキューブリックでさえ、「興行収益がイマイチ」では名誉挽回の手を打たざるを得なかった。「次はちっと稼がないとな」というプレッシャーがあった。その結果、彼はホラー映画に目をつけたのだ。彼としてはそうした制作は多少憂鬱だったかもしれない。
アメリカ映画というのはあくまでも大衆の娯楽性を最優先するようなところがある。人種やら宗教やら祖先の出身地やらに関係なく「いやー、あの映画は面白かった」とだれもが満足するような映画を第一とする。その点で恐怖には人種も宗教もない。そこでキューブリックが目をつけたのが「シャイニング」だったのだ。タイミングとしてもよかった。「エクソシスト」(1973)、「オーメン」(1976)などこの時期は話題のホラー映画があった。「キューブリックが今度はホラー映画を作ってるらしいぞ!」という期待はなかなかのものだっただろう。

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そうしたキューブリックの事情から見ていくと、ジャック・トランスにジャック・ニコルソンをもってきた理由も「なるほどねぇ」とわかるような気がする。キューブリックで、ホラーで、ジャック・ニコルソンとくればもう、これはいやが上にも「すげー映画にちげえねえ!」と期待が盛り上がるというものである。
ポスターのデザインがまたそれを象徴しているかのようだ。ジャック・ニコルソンの「歯をむき出して笑った狂気の顔」が木の割れ目から覗いている。「いったいこれはなんだ?」と思うようなポスターだ。タイトルの「シャイニング」(輝き)とも全く結びつかない。「バリー・リンドン」における誠実で生真面目な取り組みに対し、「シャイニング」ではなんかもう「今回はおまえら低俗な大衆に提供する出血大サービス恐怖映画だ。ザマーミロ!」みたいなシニックな精神を水面下に感じるのだが、いかがだろうか。

「ははは、深読みしすぎ」とあなたはいま思ったかもしれない。しかし映画「シャイニング」にはじつに奇妙な「魔の仕掛け」が随所にある。これはもちろん、オーバールックホテルを「魔のホテル」にするためである。しかしどうもそれだけとは思えない。サブリミナル・テクニックをはじめ「魔の仕掛け」は(キューブリックがひそかにバカにしている)観客に向けられているとしか思えないようなものまである。次回はそのあたりを述べてみたい。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )