【 生物学魔談 】魔の胞子・タイワンアリタケ(1)

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今回から4回にわたり、2月は「生物学魔談」をやりたいと思う。筆者はサイエンス雑誌が好きで、とりわけ生物学のフィールドに興味がある。この方面の面白い記事や学説を以前からストックしており、その中の「魔」的なものを魔談で紹介する機会を狙っていた。

生物学の世界には、我々が動物や植物や昆虫に抱くイメージを「えっ?」という驚きと共にくつがえすような魔談が存在する。それがどのように「魔」なのか。ぜひ一読して驚いていただきたい。
さてそのトップはゾンビ談。映画の話ではない。実際にこの地球上で発生している奇怪な話である。

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「タイワンアリタケ」と言えば、シダ類・コケ類・菌類などに興味のある人は思わず顔をしかめ、「ああ、アリをゾンビにしてしまうヤツね」と知っている人もいるだろう。この名称に注目すると3つに分けることができる。「タイワン・アリ・タケ」である。最後の「タケ」は「マツタケ」の「タケ」と同義だ。そう、つまり胞子植物なのだ。

この胞子植物というヤツは種子の代わりに胞子を飛ばして子孫に繋いでゆくのだが、種子植物よりも(筆者の勝手なイメージだが)変わり種が多く、いや変わり胞子が多く、筆者が思わず身を乗り出して興味を示すような暗黒フォースを有している種が多いように思われる。もちろん自然界においてはライトもダークもなく「余計なお世話だ。我々はただ懸命に子孫を残そうと日夜努力しているだけだ」ということになるのだろうが、それにしても「どうしてこんな芸当ができるのか」と我々が驚嘆するような奇怪な生態のヤツラがいる。筆者が知る限り、その最もケッタイなヤツラがこのタイワンアリタケだ。

一言で「胞子」と言っても、実際はじつに多種多様で変種も多い。タイワンアリタケの場合、胞子は菌類が乗りこんでいる車両のようなものである。バスのような通常の乗り物ではなく、「子孫を残すためにアリに突撃する」という任務を帯びた戦闘車両のようなものである。落下傘降下部隊のように空中から突撃し、地上を右往左往しているアリに首尾よくくっつくと、バラバラッとタイワンアリタケ菌部隊が散開してアリの体内に侵入する。そしてアリの体を乗っ取り、自分たちの目的のためにアリを操縦するようになる。アリは「ゾンビアリ」となってしまうのだ。

このあたり、筆者は思わず「スターウォーズ」に登場のスノーウォーカーを連想する。ほら、「帝国の逆襲」で雪原の上をズシンズシーンと4本足で進撃してくる巨大ラクダロボットみたいな奇妙なスタイルの戦闘車両があったでしょう。あれである。しかしスノーウォーカーは「めっちゃ開発費がかかっただろうな」と思われる割には存外トロくてチューバッカがあっさりと乗っ取り、他のスノーウォーカーを攻撃したりするのだが……まあそれはともかく、そんなふうにしてアリは乗っ取られる。

アリジャックの目的はなにか。乗っ取られたアリは通常の行動から逸脱し、しばらく徘徊したあげく、やがて地面を離れて灌木など背の低い木に登り始める。侵入者がココと決めた高さまで登ると、歯や枝にがっちりと噛みついて体を固定させ、その状態で息たえる。これでアリの操縦は終了。奇態なことに、しばらくすると死んだアリの頭部を突き破ってツノのようなものがニュッと出てくる。それはどんどん伸びる。じつはそのツノは、胞子戦闘車両の出撃基地である。ある程度伸びると、そこからパアッと胞子をまき散らすのだ。その真下にはアリが列をなして動き回っている。

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どうですか。じつに気味の悪い話でしょう。しかしこの話はこれで終わりではない。いやここからが面白い展開となってくるのだ。タイワンアリタケがなぜアリを自在にコントロールできるのか。そのシステムは謎に包まれている。研究者たちは「菌がアリの脳に入り込んでいるのだろう」とこれまでは考えてきた。ところが、昨年度2017年11月に米国科学アカデミーから公開された論文によれば、そうではないというのだ。次回はその話をしたい。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )