【 生物学魔談 】魔の寄生・ロイコクロリディウム(4)

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この事件からかれこれ半年ほど経過していたが、メールが来て「会う時間はありますか?」という一文を見た時は、ちょっと驚いた。タバサと二人で一時帰国したらしい。幼い時からずっと仲良しだった友人が品川プリンスホテルで結婚式をあげることになったので、それに出るために帰国したのだ。タバサは実家に預けるので、会う時間を作れるという話だった。「喫茶店がいいのか?」と聞くと、そうじゃなくて飲みたいという返事。新宿で会って飲むことにした。「あの話をしたいんだな」という予想はすぐについた。その夜を楽しみに待った。

数年ぶりで会った彼女は、スッキリした短髪に変化していた。正直なところ「お、ちょっと太ったな」という第一印象だった。アメリカの食生活の影響かもしれない。しかしもちろん余計なことは言わない。言わないどころか「ちょっと太ったでしょ」と笑う御本人を前に「どこが?」としらばっくれた。あれこれたわいない雑談をして笑っているうちに「こっちが正しい本来の姿で、昔は痩せすぎ」といった印象になってしまった自分の感覚がおかしかった。

1時間ほどが経過した。お互いに程よく酔ったところで、「あの話」が始まった。筆者としても、こうした場ではその時の彼女の気分とか気持ちを遠慮なく質問できるのが、面白かった。話は「病気じゃないと思うの。宇宙人が目の中に入ってると思うの」から続けたい。

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「宇宙人なんていない」とは言えなかった。「宇宙人じゃない」とも言えなかった。
「そうね。ママもよく調べてみるね」と言うと、タバサはにっこりした。
「……それで、そのカタツムリはどうしたの?」
ビンからなかなか出ようとしないし、アニメが始まる時間が気になったので、そのままそこに置いてきたらしい。
とりあえずホッとした。しかし食事を終え、その後片づけをタバサに手伝わせ、一緒にテレビを見て、一緒にお風呂に入ったときも、ずっとこのことが頭を離れなかった。タバサをベッドに寝かせ、傍で「赤毛のアン」を読んだ時も、ずっとこのことを頭の隅で考えていた。しかし結論は出なかった。かなり疲れていたらしく、その夜はタバサの寝息を聞いてからすぐに自分のベッドに入った。一気に無意識世界に突入した。

翌日の朝、夫に電話した。彼はカフェで朝食中だった。話はちゃんと聞いていたが、出勤前のあわただしさで早く電話を切りたがっているような雰囲気をありありと感じた。「……わかった。どうしたらいいか考えてみる。また電話する」と彼は言い、さっさと自分から電話を切った。切り方も気になった。彼女の返事を待たずプツッと切ってしまった。「こんなコトでいちいち電話するな」と言わんばかりの切り方だった。

正午になっても電話はなかった。午後3時になっても電話はなかった。庭を見ると、あいかわらず同じ場所にタバサはしゃがんでいた。
「まだいるの?」
「いま出てきた」
「さわっちゃだめよ!……ビンもそのままにしておくのよ!」
タバサは無言でうなずいた。

カタツムリが完全にビンから離れたら、すぐに行ってビンを撤去しようと思った。庭いじり用の軍手を用意した。ビンがなくなってカタツムリがどこかに行ってしまえば、タバサもあきらめるだろう。そう思ったが「あきらめないかも」という不安もあった。あの子はカタツムリの中に宇宙人が侵入していると信じている。この地球を守るために宇宙人カタツムリをずっと目で追いかけるつもりかもしれない。

庭を見た。タバサの小さな背を見てため息をついた。どうして「宇宙人が目の中に入ってる」と思ったのだろう。どうしてカタツムリとは異種の生物が「目の中に入ってる」という結論になったのだろう。聞いてみたいと思ったが、「気持ち悪い」という気分がどうしても先行して気が進まなかった。小さなイライラがどんどん蓄積しているような不快感があった。「先生にメールしようか」と思ったが、夫の反応が気になっていた。「こんなコトで忙しい先生にメールするのはよくない」と思った。夫からの電話を待った。

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タバサと夕食の最中に電話がかかってきた。イラッとした。よりにもよって食事中にそんな話をしたくなかった。タバサとだってアニメの話題で盛り上がっていたのだ。無視した。

・・・・・・・・・・・・・・・( つづく/次回最終回 )